おそらくは続かない筋トレよりも畑仕事を選ぶ中学生

笹椰かな

本文

『筋肉は全てを解決する』

 春休みをダラっと過ごしていた私は、スマホ越しにそんな言葉を見つけた。


「全て……全てとは?」


 クエスチョンマークを頭に浮かべながらつぶやく。

 たぶん全てと言っても、あらゆる病気が治るとか人間関係の悩みが解消されるとか学校の成績が良くなるとか、そういう事は含まれないんだろうな……うん。


 そんなアホな事を考えながらも、私は動画サイトにアクセスして筋トレ動画を検索し始めていた。


 ――二十分後。


 簡単な筋トレをいくつか実践した私の身体はクタクタになっていた。筋肉が勝手にプルプル震えている。


「筋トレ、キッツ……」


 これ、明日になったら筋肉痛になってるんじゃない?



 ――翌日。

 私の懸念は現実となった。動く度に身体が痛む。ダルい。


「うえーん。筋トレキツい~、こんなの続けるの辛い~」


 電話で愚痴りながら、ベッドの上をゴロゴロと転がった。

 すると通話相手であるおばあちゃんは励ましたり労ったりしてくれるどころか、電話越しにため息を吐き出したのだ。


「情けないねぇ。由佳ゆかちゃん、まだ中学生でしょ? 筋トレが嫌ならばぁちゃんの畑、耕すの手伝うかい? 勝手に筋肉は付くわ、野菜が育てば美味しいもんが食べられるわで一挙両得だよ? 由佳ちゃんが手伝ってくれれば、ばぁちゃんも助かるし」


 最初は「え~」と返そうと思ったけれど、おばあちゃんの家はうちから十五分かかるか、かからないかくらいの距離だし、たぶん自力で筋トレを続けようとしても私の性格だと三日も続かないだろう。


 そこまで考えているとスマホから、「おーい、由佳ちゃん?」とおばあちゃんの声がした。意識が現実に引き戻された瞬間、慌てて声を出した。


「ごめん! 考え事してた。おばあちゃん、私、畑仕事やるよ! 春休みの間だけでもやってみる!」


 おばあちゃんは期待していなかったらしく、私の返答に心底驚いていたのだった。

 酷いよ、おばあちゃん!

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