Tails of tales
fairy’s tail
夢端見 ゆめはみ
とにかくその姿ははっきりと覚えている。
黒い髪は本当にきれいでつやつやしていて細くって、簡単に風にゆらめいていた。瞳も同じような光を湛えていてとても真っ直ぐで、まつ毛は長く、麗しかった。
とても美しい人だった。いや、多分、そうだった。確証がない。なぜなら僕は彼女をあの一回しか見ていないし、何しろ本当に目が悪い。あの日、あの時、僕は確かに眼鏡を壊して友達に縋りながら歩いていたはずなのだ。
あの瞬間に僕は道標代わりにしていた友人に彼女の存在を確認しなかったし、のちにも一言だって誰かに彼女のことを漏らしたことはない。だけれどこの頃、他人に彼女の存在を確かめたい気持ちが強かった。
彼女の瞳は記憶によれば甘やかな黄色をしていたのだ。
遺伝について学んだのは高校生のとき。黄色い瞳など存在しないと知って、まさか、と思った。
だって彼女はとても美しいレモンイエローの虹彩を持っていたのに。だって彼女はあんなに美しくあそこにいたのに。
歳を重ねるごとに、当然なのだけれど、記憶は薄れていく。はっきりと覚えているけれど、なんだか、見間違いなのか、黒髪は翠色(みどりいろ)にきらめいていたような気がしている。緑の色彩を持った毛髪も、人間の遺伝子には規格外。ではなぜ?
一目惚れっていう言葉の軽さはあまり好きじゃあないのだけれど、僕は確かにあの少女に魅せられて何年も想い続けている。どこかで会いたい。ぜひ、話してみたい。
けれど目が悪い筈の僕が見た、非現実的な少女の姿なんて、幻想か、霊的な何かだとしか思えない。それは認めたくないのだ。
僕はときどき、眼鏡を外す。
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