妖精の絵画


 少年がまだたどたどしい足取りで姉のもとへ走ってゆく。弟に気づいた少女は、花弁の開くようにふわりと顔を上げた。

 ふたりのこどもはほとんど笑わない。物静かで、人見知りもよくした。けれどうつくしいものを見つけたとき、彼らが綻ぶのを彼女は知っている。

(ああきっと、蝶をみつけた。)

 潜めてはいないのに静寂を顕すように幽かな声がなにか遣りとりするのを、遠くから眺めるのが好きだった。ずっと昔の貴族なんかはこのように話したんだろうかと思いを馳せるのも。

 子供特有の細い髪を風に遊ばせて、あの姉弟は野山に還りにくる。花から生まれた妖精なのだと聞けば信じてしまいそうなほど、それは麗らかな光景だった。

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