誘引の毒

 その時、ふいに目に留まったのは白崎の好む類の本だった。昆虫学、殊に鱗翅目に関する本を、それこそ葉を食い尽くす青虫のように熱心に読み込んでいる様に、何度苦言を呈したことか。悪食な娘だ。その一冊に手を伸ばし、開いてみると、警告色について触れられている。

(キジョランには毒があるの。この虫は、幼いころからそれを蓄えているんだって)

 いつかに言ったことばが思い返された。悪食は毒を得るためか。ならばあの独特の雰囲気いろあいは、周囲の者を遠ざけているのか。

「……馬鹿馬鹿しい。」

 閉じた本は不可侵の色をする。ここに書かれている世界を知らないのだと言われているようで、気に入らない。

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