第72話 私が輝く舞台まで!
【前書き】
二反田ちゃんの地元の様子です。
――――――――――――――
探星高校の入学式より、日付は少し遡る。
――杉浦たちが全員合格を果たした探星高校入学試験の翌朝。
『二反田』という、珍しい苗字の表札が出ているその家の前に黒いリムジンが止まった。
そして中から、黒いサングラスをかけ強面な男性が車を降りる。
「ここか、二反田真子のお宅は。
「大丈夫ですか、黒田? 貴方だと相手を怖がらせてしまうのではありませんか?」
「要らぬ心配です。私は学園の教員ですよ? 御冗談はそれくらいで」
「いや……冗談を言ったつもりはないのですが」
その男――探星高校の教員である黒田はサングラスを胸ポケットに入れて自信に満ちた表情でインターフォンを押した。
すると、家の中から声が聞こえた。
「ちょっと、アナタ出てくれる~? 今、お料理中だから」
「分かった。少々お待ちください~!」
二反田の両親だろう。
どうやら夫婦仲は円満のようだ。
間もなく、不用心な二反田家の父は訪問相手を確認もせずニッコリとした笑顔で玄関の扉を開く。
「お待たせしました、どんな御用で――」
そして、黒田を見て固まった。
黒田は深々と頭を下げて、来訪の理由を語る。
「本日は娘さん――二反田真子さんの件についてご挨拶に参りました」
二反田の父親は呆然としたまま、オウム返しをする。
「――は? 真子のことで……?」
「はい、真子さんからはすでに前向きなご回答を頂いておりますが、ご両親にも改めてご確認をと。娘さんは、是非ともウチ(探星高校)で預からせて頂きたく――」
その数秒後、玄関から聞こえた二反田の父親による悲鳴のような怒鳴り声に二反田の家族全員が玄関に集まった。
「ちょっと、アナタ! どうしたの!?」
「な、何の騒ぎっ!? お父さん!?」
二反田の母親、そして2階から降りてきた真子が目にしたのは――。
靴ベラを突き付けて、必死に黒田を威嚇する二反田の父の姿だった。
「ウ、ウチの真子はお前なんかに渡さないぞ!」
「お、お父様落ち着いてください……私は決して怪しい者では」
「嘘をつけ! 私は真子を守る為だったら何でもするぞ! 出て行ってくれ!」
「参ったな……」
そして、黒田はやってきた真子を見つけるとサングラスをかけてお願いした。
「二反田真子、俺だ。試験官をしていた黒田だ。悪いがご両親に説明してくれないか?」
「あ、グラサンのっ! お父さん、落ちついて! この人は怖いけど良い人だから~!」
◇◇◇
「この度は、とんだ勘違いをしてしまい大変申し訳ございませんでした……」
居間に通してもらった黒田と水無月学園長の前で、二反田の両親が頭を下げた。
「とんでもないですっ! 全てはウチの黒田の風貌が悪いのです。こんな人が来たら、娘さんが攫われてしまうと考えるのも無理はありません」
水無月はそう言って、黒田の頬を強くつねる。
黒田も納得いかない表情で「すみませんでした」と頭を下げた。
「おかしいな、ちゃんと笑顔を作ったんだが……」
「それが一番怖いんですよ。ヤクザに売られるかと思ったみたいですよ?」
「えっと、それでお話というのは……?」
二反田の両親がおずおずと尋ねると、水無月は首をひねった。
「真子さんからお聞きになっていませんか?」
そう言うと、真子は慌てたようにハッとする。
「そ、そうだっ! 昨日は試験でドッと疲れたから帰ったらすぐに寝ちゃって……」
「まだご両親に何もお話ししていないということですか。まぁ、責められませんね」
水無月は着ているスーツを綺麗に整えながら、黒田と一緒に頭を下げた。
「改めまして自己紹介をさせていただきます。私、探星高校学園長の水無月です。そして隣にいる、人を殺してそうな顔の男は教員の黒田です」
「黒田です。誓って殺しはやっていません」
その紹介に、二反田夫妻は驚いた。
「た、探星高校ってあの芸能学校の!?」
「に、日本一の芸能学校じゃないか! ど、どうしてウチなんかに来たんですか!?」
両親の様子を見て驚いたのは水無月たちも同様だった。
目を泳がせる真子の様子に水無月と黒田は全てを察する。
「真子さん、ご両親にお話ししていませんね? 今日私たちがご挨拶に来ることだけでなく、探星高校の試験を受けたことすら」
「ご、ごめんなさい~! その、どうやって話して良いのか……それに試験も勝手に受けたから怒られるかもしれないし……そんなことを考えてたら眠たくなってきて――」
「何も伝えられないまま寝落ちしたということですか。全く、仕方がありませんね」
水無月と真子の話を聞いて、二反田の両親はゴクリと唾を飲む。
「あの……ひょっとして、真子は探星高校に合格したんですか?」
「はい。昨日の試験を受けて見事に合格されました」
「で、出かけてたとは思ってたけどまさか高校入試を受けてたなんて……」
「凄いじゃないか! 一人で外に出ただけでも大したモノなのに!」
「えぇ、本当に……お母さん、ちょっと理解が追い付かないわ……でも、よく頑張ったのね」
そう言って、両親は真子を叱るでもなく褒めながらしっかりと抱きしめた。
黒田は水無月に耳打ちする。
「良いご両親ですね」
「はい、真子さんは大切に育てられたようですね」
改めて、水無月は今回の来訪について説明する。
「本日はご家族の方の意向確認に参りました。娘さん――二反田真子様を当学園にて大切に預からせて頂きたく……」
「えぇ! それはもう! 良いわよね、アナタ?」
「真子の気持ち次第だ。真子が入りたいなら、俺は何でも協力するぞ!」
「うん! 入りたい! 俺、自分を変えたいんだ!」
真子の元気な返事を聞いて、水無月と黒田は胸を撫でおろした。
「嬉しいお返事を頂けて、安心しました」
「それではまず学費の方なのですが……真子さんは特待生合格なので学費は免除となります」
「と、特待生っ!?」
そして、色々と驚愕に満ちた様子の二反田夫妻への説明を何とか終わらせた。
◇◇◇
「ふー、何とか説明は終わらせられましたね」
「理解が追いついてない様子でしたが……まぁ、資料も置いてきましたし大丈夫でしょう」
水無月と黒田は家を出る。
すると、周辺に近所の人が集まっていた。
「二反田さんの所、何だか凄く立派なリムジンが停まってるけどどうしたのかしら?」
「さっき、凄い怖そうな人が家に入って行ってたわよ? 人を殺してそうな」
「じゃあ、引きこもりの真子ちゃんがついに何か問題を起こしたのかしら?」
「や~ね~、怖いわ」
水無月はすぐに黒田に忠告する。
「黒田、抑えてくださいよ?」
「……分かってますよ、学園長。それに、私のせいで変な勘違いさせてしまってますし」
「才能は、誰かに見つけてもらって初めて才能となる……。彼女の才能を見つけ出した杉浦君には本当に感謝ですね」
「アイツですか……まぁそうですね。それにしても恐ろしい。周囲がこんな環境ならそりゃ引きこもりたくもなる。ましてや二反田はまだ中学生だ」
「……まぁ、良いじゃないですか。むしろ、楽しくなってきました」
水無月はクスリと笑う。
「きっと、今に世間も認めますよ。あの子の本当のスター性を」
◇◇◇
――そして探星高校入学式の日。
同じく芸能学校として有名な
2年生の琴浦はクラスメイト達の間でため息を吐く。
「探星高校ね、入りたかったなぁ~」
「琴浦も受けてたんだ?」
「そりゃあね。でも試験が厳しすぎて無理だったわ。試験っていうよりもあれはもう実戦よ。実戦」
「私も落ちたな~。SNSの総登録者が30万人も居るのに関係なくバッサリ!」
「本当にレベルの高い学校だよね~」
そんな風に傷を舐め合っていると、カフェにも人が集まってくる。
そろそろ、探星高校の代表者スピーチが始まるからだ。
やはり、誰もが夢見た学校の代表者は誰なのか気になるのだろう。
「あっ! 今年は特待生が出たんだって!」
「凄~い! スタパラの公司君以来じゃない!?」
「また、大スターが生まれるのね!」
琴浦は羨ましそうにテレビ画面を見つめる。
「『特待生』ねぇ……一体、どんな奴なのかしら?」
そのテレビ画面に大きく映しだされたのは。
近所に住む、自分がイジメて引きこもりに追い込んだはずの女の子――二反田真子の姿だった。
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