第71話 いよいよ、入学式!
「やっぱり、凄い人の数だな~」
入学式の会場に入ると、周囲は様々なテレビ局のテレビカメラや女性アナウンサー達が集まっていた。
探星高校の入学式はテレビの取材を許可していて、毎年ニュースとして大々的に取り上げられる。
アナウンサー達の中にはこの探星高校の卒業生もいて、誰もかれもが業界の一線で活躍している芸能人でもある。
「スタジオの皆さん、本日はあの探星高校の入学式でございます!」
「ここから一流のアイドルやスターが生まれると思うと楽しみですね!」
「何せ今年の倍率は50倍超え! 例年以上に厳しい選考を勝ち抜いてきた超一流のタレントの卵たちなんです!」
各テレビ局のカメラの前で達者なコメントを披露している。
例えどんなに興味がない話題でもキラキラとした笑顔でリポートをこなすアナウンサーの皆さんは既に立派なプロだ。
果たして、三島がこれと同じことをできるようになる日は来るのだろうか?
「今、何か失礼な事を考えませんでした?」
「カンガエテナイヨ……」
三島に睨みつけられながら俺は言葉を濁す。
うん、まぁウチのアイドルは自分らしくやってくれればそれで良いから……。
それに、アナウンサーじゃなくてアイドル志望だしね。
会場の盛り上がりを見て、二反田は驚きながら俺の腕を引っ張る。
「こ、これ全員生徒なのか!? 凄い数だぞ!?」
「違うわ真子。ほとんどが私たちを食い物にしたい薄汚い野次馬たち」
「み、三言ちゃんそんな言い方しなくても……でも、本当にすごい注目度だね」
探星高校。
日本一入学が難しい、一握りの才能を持った人だけが入学できる芸能学校。
これがハリウッドスターすら排出している本学校の期待値を表していると言っても良いだろう。
そして、難しいのは入学だけではない。
むしろ、入学後の方が厳しい。
生徒たちはお互いにしのぎを削ってライバルたちに打ち勝ち、トップの座を狙うのだ。
すべては、日本一のアイドルになる為に――
「今年もあるのよね? 『新入生の代表スピーチ』」
3人で会場全体を見渡していると、そばの女生徒たちが何やらひそひそと話をしていた。
「当然でしょ? アイドル課の主席合格者が毎回テレビに生放送でデカデカと映し出されて、しばらく話題になるじゃない」
「責任重大よね~」
「今年はどんな人なのかしら」
「あの厳しい試験を1位合格だもの! きっと、凄く自信に満ち溢れていて、気品に溢れてて聡明で、御淑やかな大人っぽい人なんだわ!」
「楽しみ~! 早く見てみたいわ!」
そして、キャッキャと盛り上がる。
今の会話を盗み聞きしていた俺たち3人は固まる。
そして、二反田はダラダラと冷や汗を流し始めた。
「ど、どうしよう杉浦! 俺は『シャイで、バカで、ワンパクな子供』だ! みんなのイメージの真逆だよ~!」
涙目で俺に縋りつく二反田。
誰もコイツが新入生代表だなんて思わないだろう。
「あっ! 見てください! 合格したことを泣きながら喜んでいる生徒さんもいますよ!」
「きっと、念願の合格だったんでしょうね~」
「探星高校は超難関なので、何度も落ちて浪人する生徒も少なくありません」
「心からのお祝いの気持ちをお送りしたいですねっ!」
周囲のアナウンサーたちも微笑ましい表情で二反田をリポートしている。
すみません、こいつ現役の特待生合格なんです。
二反田は怯えているが、俺が言えることは一つだけだ。
「まぁ、たかだか新入生の挨拶だ。俺は全く心配してない」
「……えっ?」
「二反田はただ、素直に言えば良いだけだ。これから入学する自分の気持ちを」
「俺の気持ち……?」
「うん。二反田の気持ち」
俺がそう言うと、三島はため息を吐く。
「全く、なんですかその助言は」
「そ、そうだよな三言! 俺の気持ちなんか言ったって――」
「貴方にしては珍しく良い事を言うじゃないですか」
「……え?」
そして、一ノ瀬も心強い瞳で二反田の手をギュッと握る。
「そうだよ! 真子ちゃんなら大丈夫! 頑張って!」
「そ、そんなこと言われても~!」
「ほら、もうそろそろ入学式が始まっちまう。それぞれの席に着こう」
「あぁ~! は、始まっちゃった~!」
――二反田の困惑の叫び声と共に、入学式が始まった。
入学式では、
そして、すぐにその瞬間はやってきた。
「では、新入生代表の挨拶です! 新入生を代表いたしまして、アイドル課より――」
そこまで聞くと、我が妹――杉浦
アイツ、恐らく自分が『主席合格』だと思っているんだろう。
合格発表の掲示板は試験の順位で上から名前が書かれていた。
その一番上に杉浦麗華の名前があった……だから勘違いしているんだ。
「特待生の二反田真子さん! よろしくお願いいたします!」
「は、はは、ひゃいっ!」
「はぁ~!?」
しかし、指名されたのは当然二反田である。
麗華は驚愕の表情と声を上げて振り返る。
そこに居たのは、つい先ほど自分が宣戦布告をした相手である。
「と、特待生っ!?」
「噂にはなってたけど、今年本当に出たの!?」
「何と、今年は特待生合格者が出たようです!」
「こりゃ、ニュースになるぞ! カメラ、ちゃんと映せよ!」
当然、周囲は生徒もメディアもザワついている。
隣に座る俺たちは、再び二反田にエールを送った。
「真子ちゃん、大丈夫!」
「真子、周りなんか気にしないで。自分らしくね」
「何かあったら、俺が責任を取る。適当で良いんだ、頑張れ」
「お、おう……!」
二反田は震えながら席を立ち上がった。
そして、ガチガチに緊張したままステージの上がる。
目をグルグルと回しながらも、何とか演台の上に置かれたマイクの前に立った。
(二反田……)
二反田はすぐに俺を見つけて大きく深呼吸をする。
どうやら、少しは落ち着けたみたいだ。
そして、ゆっくりと話し始めた――
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