第67話 百合に挟まろうとする男

 

 入学式の会場である体育館に向かって三島と歩いていると、駆け寄る足音と共に元気な声が聞こえてきた。


「杉浦君! 三言ちゃん! もう来たんだ~! 早いね!」


「一ノ瀬、お前も早いな」

「一ノ瀬さん、おはようございます」


 一次試験で俺が助けたアイドル。

 一ノ瀬が手を振りながらやって来た。


 三島の挨拶を聞いて、一ノ瀬は頬を膨らませる。


「三言ちゃん! 私のことは比奈ひなって下の名前で呼んでって言ったでしょ!」


 一ノ瀬に凄まれて、三島は少し恥ずかしそうに言いなおす。


「ご、ごめん……ひ、比奈」


「うん、良いんだよ! 三言ちゃん~!」


 三島は照れながら一ノ瀬に好意的な目を向ける。

 何この百合百合した空間、俺も混ぜろよ。


「お友達ができて良かったね三言ちゃん」


 俺もさりげなく名前呼びに便乗すると、三島に睨まれた。

 やはり百合に挟まろうとする男は大罪か。


「2人は仲が良いんだな?」


 合格発表で顔を合わせた事しか知らない俺は不思議に思い尋ねる。


「えへへ! 私たちもうすっかり仲良しなの!」


「みんなで連絡先を交換して、二反田――真子まこと一緒にグループ通話で何時間かお話をしたんです」


「そうそう! その時に仲良くなりたいからみんなで名前呼びにしよう! って決めたんだ!」


 女子同士って仲良くなるの早いよな。

 くそっ、羨ましい。俺も月読と男同士ラブラブになってやるぜ。


「どんな話をしてたんだ?」


「みんなで貴方への悪口大会で大盛り上がりしたんです」


「えっ、死のうかな」


「ち、違いますよ!? 三言ちゃんは確かに言葉がキツかったですけど、それも杉浦さんへの信頼ゆえといいますか……」


一ノ瀬いちのせ比奈ひなさん? 何変なことを口走っているんですか? 私が信頼? この変態に? 変な戯言はやめてください」


「フルネーム呼びはやめて~! 私、なんか三言ちゃんに凄い距離置かれた!?」


 一ノ瀬と三島のてぇてぇ空気を吸いながら、俺は観葉植物のように空気と同化した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る