第66話 入学式
――探星高校入学式。
学校指定の学生服を着てビシッとキメた俺は校門で手鏡を出して自分の姿を見る。
そこには冴えないもじゃもじゃ頭の少年が映っていた。
「よし、完璧だな」
「……ネクタイも背中も性格も曲がってますよ、変態さん。全く、仕方ないですね」
そして、何故か隣にいる三島にネクタイを直される。
「ペットは飼い主に似ると言いますから……山田ちゃんが猫背なのもきっと貴方のせいですね。
「変な言葉を発明するなよ」
「私から言論の自由を奪おうというのですか?」
「大げさだな。それと、猫と一緒に住んでると猫の方が主人になるからな、俺が山田に似たんだよ」
「それなら、背中じゃなくてもっと可愛い所とか似てくださいよ。例えば、目がクリクリしてて全身が白い毛で覆われてて、手足が短くて……うわっ、気持ち悪っ。死んでください」
「こんな理不尽な罵倒は初めてだ」
恐らく三島の頭の中には俺と猫が融合した悲しき生命体のイメージが出来上がったのだろう。
何でこいつが一緒に居るかというと、それは今朝の出来事だった。
登校の準備を終えた俺のスマホに、三島からメッセージが来た。
「――どうせ近所ですし、車で乗せて行ってあげます。今日だけですよ?」
自分で運転するわけでもないのに偉そうにこいつは言ってきたのだ。
運転しているお父様にだけ、俺は懇切丁寧に感謝の言葉を述べておいた。
サインはまだもらってないらしい、あげてやれよ。
「人のネクタイなんてやったことないので難しいですねー」
そう言いながら俺のネクタイを何度か結びなおしていると、聞き覚えのある美少年の声が聞こえた。
「お~い、杉浦! 朝からアイドルとイチャイチャしてお熱いねぇ~」
茶化しながら駆け寄ってきたのは月読だった。
スーツも似合っていたけど、当然学生服も似合っている。
月読の言葉を真に受けて顔を真っ赤にした三島は、俺のネクタイを蝶々結びにして俺から急いで離れた。
「できました。お似合いの恰好ですね」
「逆に器用だなお前」
「あはは、ネクタイなら僕がやってあげるよ」
そう言って、月読は一発で凄くカッコ良く結んでくれた。
この結び方は確か、『メロウィングノット』だったか。
凄く複雑な結び方なのに、流石は月読。嫌味なくらい完璧な奴だ。
立つ瀬がなくなった三島は不機嫌そうに腕を組んでそっぽを向いてしまう。
大丈夫、綺麗な蝶々結びだったよ。
ネクタイを結び終えると、月読はすぐに手を叩く。
「あっ、そうだ! 入学式に向かってたんだった! じゃあ2人とも、先に行ってるね~!」
「まだ時間までは余裕あるだろ?」
「主席合格者は新入生代表挨拶があるんだよ。その打ち合わせがあってね。ちなみに僕たちはアイドル課と合同だよ」
「なるほどー、主席合格者には挨拶が……」
……アイドル課の主席合格者って二反田になるんだよな?
挨拶なんて、大丈夫か? あいつ。
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