第51話 最終試験、終了
「――ちょ、ちょっと! あんた、何勝手な踊りしてんのよ!?」
踊り終わったアイドルたちは三島を非難し始めた。
「そうよ! 1人だけ目立とうとしないで頂戴!」
「どうせ、踊りが分からなくなったんでしょ!」
「そうよね、あんたはほとんど練習なんてしてなかったんだから!」
俺は立ち上がったままそんなアイドルたちに反論する。
「違う、三島はダンスを覚えてた! ここにいる誰よりも正確に踊ってたんだ! そして、三島は音楽を聴いて、もっと良いアレンジに変えたんだ! これこそが超一流のアイドル! ですよね!」
興奮冷めやらぬまま試験官や学園長たちがいる机に熱弁すると、グラサン試験官は腕を組んだまま落ち着いて語る。
「ダメだろ、勝手にダンス変えちゃ」
「……へ?」
グラサン試験官のお言葉に水無月学園長もうなづく。
「そうですね、これは本番を想定して踊って頂いています。ダンスを変えるのはアリだと思いますが、事前に試験官や仲間に相談すべきですよね」
……おっしゃる通りです。
勢いで誤魔化せるかと思ったがダメだったか。
「いや、でも! 凄いダンスでしたよね!? ねっ!?」
俺は今度はプロデューサーたちに助けを求めた。
三島のダンスにはみんなも圧倒されていたはずだ。
しかし、一番端に居るワックスでガチガチに頭髪を固めたプロデューサーから順に苦言を呈す。
「ダンスは別にこれから練習すれば上手くなるからな。ソロアイドルなら良いがグループとなると一人だけ飛びぬけて上手いのも違和感だ」
「評価シートの項目を見ても分かるけど、今回の試験は協調性やお手本に沿った動きを忠実にできるか、愛嬌や好印象をお客さんに与えられるかを見ているんじゃないかな」
「そうだね、ダンスは頑張って練習すれば良いけど性質はその人間が元来持っているモノで、アイドルに向いているかどうかを見極める方が重要だよね」
「うん、お客さんを楽しませようと努力したか。上手さよりも真剣にパフォーマンスと向き合ったか。の方が重要かな」
更なる正論で反撃される。
くそ、最終試験まで来ているだけあってこいつら意見がマトモすぎる。
「――そ、それで言うなら三島は誰よりも真剣に今回のダンスに向き合っていました! 何度も課題曲の『スターライト』を聞いて、その曲をダンスで表現出来ていました! 星が夜空に輝くようなきらめきを三島のダンスに見たはずです!」
もはや何の根拠にもなっていない感情論をぶつける。
この曲は俺が作った曲だから、俺には分かるんだ。
三島はちゃんと曲に込めた想いをくみ取ってくれた。
「――馬鹿、もう良いの。いいから座って。みんなの言うことが正しいよ」
三島があきれ返った表情で俺に言う。
しかし俺は諦めない。
「待ってろ、三島。今、もっと良い屁理屈を思いつくから……そうだ! 実は俺が『ライアー』で、この曲も三島みたいなダンスを想定してたっていうか」
「――だからもう良ってば、てか変な嘘吐くな。それに……勝負はあんたの勝ち」
三島はそう言って少しだけ口元を緩めた。
「私、アイドルやってみるよ。踊るの凄く楽しかったから。まだ心臓がドキドキしてるの、もっといっぱい私は踊ってみたい」
「三島……」
「探星高校はダメでも、他にアイドルになる方法はいくらでもあるでしょ?」
グラサン試験官は三島の言葉を聞いて、また大きくため息を吐く。
「お前はお前で何言ってんだ? 普通に採点するぞ?」
「「――へ?」」
俺と三島は素っ頓狂な声を上げた。
こんな勝手なことをしたから当然失格だと思っていたのだが……。
「三島が自分勝手に踊り出したのは後半になってからだから、そこから大幅に減点をくらうだけだ」
「はい。前半は完璧でしたし、まだ落ちるとは決まってませんよ。最後はちゃんとお手本通りにキメてましたし」
水無月学園長はそう言うと、にっこりと笑った。
「それと三島さん。あんな風に笑えたんですね。アイドルをするのが楽しくないなら貴方のためにも落とした方が良いと思っていたのですが……」
チラリと俺を見て、学園長は言葉を続ける。
「でも……今は違いますよね? 体もそうですが、貴方はそれ以上に心が躍っていた。試験の結果は分かりませんが、貴方の笑顔は一番素敵だと思いましたよ」
「…………」
水無月学園長のお言葉をじっと聞いていた三島は眉をひそめた。
「……私、笑ってなんかいませんけど?」
「――え?」
思わぬ返答を受けて、学園長は不思議そうに首をかしげた。
「だから、笑ってないです」
「いや、笑ってたぞ」
俺がもう一度指摘すると三島は少し怒った表情で怒鳴った。
「笑ってないからっ!」
「……笑ってたでしょ。しかも声まで上げて」
ついには一緒に踊っていたアイドルたちにまで指摘されると、三島は顔を真っ赤にした。
無自覚だったらしい。
「……は、早く試験を進めてください」
クールな三島にとって笑顔を見せてしまったのは誤算だったようだ。
しかし、彼女が否定すればするほどに先ほど見せてくれた弾けるような笑顔が色濃く思い出されてしまうのは俺だけじゃないはずだ。
これがギャップ萌えというやつか。
非難していたアイドルたちも今は「何この子、可愛い」みたいな微笑ましい目で見ている。
その後、俺を含めたプロデューサーたちは評価シートを記入する時間と意見交換の時間を経て最終試験を終えた。
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