第52話 もう間違えないでくださいね?
「終わった……」
今年度の探星高校入学試験、その全てが終わった。
試験結果はもうしばらくしたら広場に張り出されるらしい。
呆然と中庭のベンチに座って休んでいると、頬にヒヤリと冷たい感触があった。
振り返ると、三島が俺の好きなミルクコーヒーの缶を当ててきていた。
「心配しなくても、きっと落ちてますよ」
「そこは受かってますって言って欲しかったな」
俺は缶コーヒーを受け取って蓋を開けた。
三島は「もっと端に寄ってください」と俺に命令して同じベンチに座る。
そして、「残念でしたね」とでも言いたげな様子で俺のとは違うメーカーのコーヒー缶を見せびらかしてきた。
「……私も落ちてると思いますよ」
「三島は受かってるさ。俺が滅茶苦茶推しまくったからな」
「本当ですよ。見てられないくらいでした」
「プロデューサーは担当アイドルを売り込みまくるのが仕事だからな」
「いつ、貴方が私の担当になったんですか? それと、目の前でやられると地獄ですね」
三島は呆れたような表情で大きくため息を吐いて、日が落ちてきた空を見つめる。
「それに……別に落ちてても良いんですよ。合格よりももっと大切なことが分かりましたから」
そう言って三島は自分の缶コーヒーの蓋を開けようとしたので俺は奪い取って開けてやった。
また少し不機嫌そうな表情で三島はそれを受け取る。
「人生はクソゲーってことです。でも、クソゲーだからって適当にプレイするんじゃなくてどうせやるなら楽しまなくちゃ損じゃないですか」
そう言って、ゴクゴクと缶コーヒーを飲んで一息ついた。
「貴方みたいな狂人に教えられたのは癪でしたが……せっかくなので、私からも貴方に一言言っておきます」
そう言って俺を睨みつける。
「ありがとうございます、私を狂わせてくれて。私は順風満帆な人生から貴方のせいで、気の迷いでアイドルを始めます」
「それ、感謝してるか?」
優等生に悪い遊びを教えてしまったような罪悪感を覚えていると、三島はコーヒーをもう一口飲んで眉間にシワを寄せた。
「う~ん、外れですねこのコーヒー。私には苦すぎます。まぁ勿体ないので飲みますが」
「俺が買ってやったミルクコーヒーほど甘い缶コーヒーは他には無いぞ」
「そうなんですか、じゃあ今後は貴方が別のコーヒーを飲んでくださいね。また私のと間違えられたら迷惑ですから」
「俺が先に飲んでたのに、お前が優先されるのかよ……」
相変わらずの三島の横暴さにヤレヤレと思いつつ、今の言葉の違和感に気が付く。
(……ん? ていうか今、"また"って……)
「ほら、いつまでもここに居ても仕方がないですから広場に行きましょう。もうすぐ結果が張り出されるかもしれませんよ」
先を行く三島について行くようにして、俺も広場に向かった。
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