第49話 一歩踏み出すステップを

 【前書き】

引き続き、三島視点です。

―――――――――――――― 

「ミュージック、スタート!」


 ~♪


 恐らく、リーダーという扱いになっている赤髪のアイドル柳島茜やなぎしまあかねの掛け声でダンスが始まった。

 みんなと合わせて踊るのは初めてだけど、動き出しは問題ない。


 ステップ、ターン、ポジショニング。

 全て問題なく、私はお手本の通りに踊れていた。


 そして、逆にお手本とズレ始めるのは私以外のみんなの方だ。

 間違ったタイミングで彼女たちは揃った動きを披露する。

 恐らく、ダンスとしては有名かあるいは流行っている動きなのだろう。

 だから確認を怠っているのだと思う、『知っている』つもりになるのは油断を招きやすいから。

 一方の私は素人だからちゃんと一つ一つの動きを見て、漏れがないようにチェックしていた。


(……それにしても、こんなに良い曲をこんな振り付けのダンスにするなんて。萎えるなぁ)


 小学生の頃、国語でよく見た問題。

 『この時の、作者の気持ちを答えなさい』

 そんなの本人に聞かないと分からないだろうとツッコミたくなった。

 でも、想像は膨らむ。


 この曲、『スターライト』はもっと激しい振り付けを想定して作られた曲だと思う。

 もっと自由な振り付けで、男性アイドルグループがスタイリッシュに踊るイメージ。

 何度も聞いてなんとなく、そんな想いが伝わってきた。


(試験の為に、正しく踊らせるような曲じゃないでしょ。本当に高校受験ってクソゲーだ)


 受験は秘匿性が高く著作権の例外だから作曲者本人がこんな風に使われているだなんて知ることもないだろう。

 むろん、学園側もそれを承知でやっているはずだ。


 でも、正直私はこの曲をちゃんと踊りたい。

 ちゃん作曲者の想いを汲み取って、ダンスで表現したい。

 だってこれは、そんな風に心が自由に弾む曲だから。


『――どんなヌルゲーでもクソゲーでも目的は同じ……"ゲームを楽しむ"ことだ』


 私だけが正しい踊りを続けながら、例の変質者の言葉が頭の中でリフレインする。

 というかあいつ、審査中も私のことばっかり見すぎ。

 それにあんな馬鹿げたことを言うなんて。

 あいつはきっと、最終試験は落ちるだろう。

 まぁ、私には関係ないことだけど……。


(……"楽しむ"か)


 悔しいけれど、あいつの言う通りだと思った。

 今までクリアばかりにこだわってきたけれど、ゲームは――人生は楽しむのが目的だ。

 そんな風に思ってみると、なんだか笑いが込み上げてきた。


(あはは、どうしてそんな簡単なことを私は忘れてしまっていたんでしょうか?)


 ポジションが変わり、私はセンターに移動する。


(――じゃあ、楽しみましょうか。今まで散々優等生で生きてきたんですから、少しくらいワイルドになっても良いですよね?)


 私はお手本の踊りには無い、最初の一歩ステップを踏み出した。

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