第47話 三島と最終試験

【前書き】

引き続き、三島視点です。

――――――――――――――

 

 最終試験の会場に入ると、すぐに試験の説明とクジ引きが行われた。


 私、三島三言も箱に手を入れてクジを引く。


 『クジで決まった5人組でアイドルユニットを組んで課題曲とダンスを踊る』というのが最終試験らしい。

 ここまでで一番アイドルらしい試験だ。


「――よし、5人集まったね! みんなで頑張りましょう!」


 5人のグループが出来ると、赤い髪の女の子がリーダーシップを取ってみんなをまとめ始めてくれた。

 やはりリーダーがいた方がスムーズに進む。


「みんなのダンス経験は?」


 そして、リーダーはメンバーの1人1人にダンス経験を聞いてきた。


「有名アイドルやSNSで流行った踊りは一通り踊ってるよ~。踊りの動画もいくつかアップロードしてる!」

「ふふん、私もよ。まぁ、再生数100万程度だけど~?」

「わ、私は2か月前に始めたばっかで、でももう30万再生はいってるもん!」


 マウント大会が始まってしまった。

 やはりみんなアイドルを目指すだけあって承認欲求が強い。


「三島さんは?」


「私は……。体育の授業でやったくらいです」


 私の拙いダンス経歴を聞いて気分を良くしたのか、みんなはニコニコとわらう。


「あらあら、そうなの!?」

「大丈夫よ、私たちが教えてあげるから~!」

「そうそう、三島さんも頑張りましょ~」


 意図せず、私を励ますような形でグループはまとまった。

 異物や弱者がいるとそれ以外の人間の連帯が強まる。

 イジメと同じ論理だ。


 2012年からダンスは中学生の必修科目だ。

 3年生では選択科目だったけど、私はそこでもダンスを選択している。

 ……正直、ダンスは好きだった。

 ダンスには正解が決まってないように思えたから。


「それでは、みなさんに課題のダンスの振り付けの紙をお配りいたしますね。それを見て、しっかりと練習してください」


 しかし、そうやって試験官に手渡されたダンスの振り付け資料を見てゲンナリとする。


 すでに正解が決められた動き。

 これじゃあ、つまらない試験と同じだ。

 なにより……。


(踊りがダサい……)


「振り付けは『ダンス☆ボーイ』さんに付けてもらいました。そして課題曲ですが……『ライアー』さんの『スターライト』になります」


 その発表に何人かのアイドルが興奮していた。

 私だって音楽くらいは聞くけれど、『ライアー』は知らないアーティストだった。


 アイドルグループ1組につき、1つずつ渡されたタブレットでダンスを確認する。

 音楽と共に踊るお手本の動きを見て、私は強く感じたことがあった。


(曲は……凄く良い! でもやっぱりダンスがダサい……)


「よし、それじゃあ早速みんなで合わせて踊っていこうか!」


 リーダーの女の子が手を叩いて私たちを鼓舞したけれど、私はため息を吐いた。


「……ごめんなさい。私、少し外で休んできます。練習には後から合流します」


 どうしても踊る気になれず、私はそれだけ言うと1人で外へと出た。


(えっと、確か『ライアー』の『スターライト』……)


 そして、課題曲を音楽のサブスクサービスで検索するがヒットしない。

 仕方がないので検索エンジンで検索をかけると安っぽい手作り感満載のサイトがヒットした。

 そこに放置するように様々な音楽がMP3ファイルで置かれている。

 そのうちの一つ、『スターライト』をダウンロードすると私はイヤホンを耳に着けて、外階段の手すりに身体を預けた。


 どうやら『ライアー』の曲はどこのサブスクとも契約していないらしい。

 本当に作りっぱなしで放置してある印象を受けた。


(それにしても……良い曲だなぁ)


 音楽を聞いていると、自然と身体が動きそうになる。

 きっと、ライアーもこの曲にはアップテンポな踊りを想定しているんだと思う。

 私は何度も繰り返し聞くうちにそんな想像をしていった。


(この曲で思いっきり踊れたらきっと楽しいだろうな……)


 そんな風に思っていると、強めの風が吹いた。


「――キャ!」


 スカートが少し捲れ上がってしまい、私は慌てて手で押さえる。

 大丈夫だ、そんなに大きくは捲れていない。

 下から誰かが覗き込みでもしていない限りは……。


 そう思いながら階段の下に目をやると――ベンチに座ったままガッツポーズで私のスカートを下から覗いている眼鏡をかけた冴えない風貌の変態が居た。

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