第46話 「私、何してるんだろう」
【前書き】
三島視点です。
時間は少し前に戻ります。
――――――――――――――
「……私、何してるんだろう」
2次試験の合格者名簿に書かれた自分の名前を見て、私、
二言目には「つまらない……」いつもそう言って何もかも無気力になるのが私、三島三言の歩んできた人生だ。
(人生は、死ぬまでの暇つぶしだ)
いつからか私はそんな風に、うつ病にも近しいニヒリズムに脳を汚染されていた。
だが、人に見下されるのは嫌いだった。
少なくとも馬鹿だとは思われたくない。
だから、勉強は続けてきたし両親も難関である東大高校に合格した私を誇りに思ってくれていた。
運動も苦手じゃない、スポーツも少し練習すれば大抵はそれなりにできた。
周囲に優秀だとか秀才だとか言われる中で気が付いたことがある。
努力にもセンスが要る――ということだ。
スポーツなら相手を負かす為に有効な動きがあるし、試験には出題者の意図がある。
そういうことに気が付けば他人よりも少ない努力で成果を上げられる。
きっと、それが世間で曖昧に"才能"と定義されているモノの正体の一つだと思う。
(探星高校もアドミッションポリシーと出題者の意図が分かれば合格できそうですね)
目の前の合格者名簿を見ながらそんな風に、まるで「理性で自分を飼いならせています」とでも言うような考察をする。
しかし、実際はその理性が今は故障してしまっていた。
冒頭で呟いた通り試験を受けている今の私はまさに「……私、何してるんだろう」という状態が正確だった。
◇◇◇
――数カ月前の、いつも通りの朝。
その日、私はトーストに目玉焼きを乗せるとコーヒーをカップに注いだ。
砂糖とミルクを多めに入れると、何気なくテレビを点ける。
朝のニュースで猫の特集でもやってないかと期待していた。
しかし、どの番組でも同時に同じ内容を特集していて私は仕方がなくそのうちの一つを見ることにした。
「"――昨日の『シャーロット』のライブがネット上で大きな話題になってます!"」
やけに興奮した様子のアナウンサーに、私は朝食の食パンをかじりながら目を向ける。
「"なんと! 代役で登場した
レポーターのマイクは実際にライブに参加した観客に向けられた。
「"最初、
「"その後、すっごいカッコ良いアイドルが出てきたんだよね~! 思わずみんな黙っちゃって!"」
「"しかも、歌も上手いし踊りもキレキレ! メンバーの事も熟知してるみたいでアドリブがもう最高で! ……あっ、鼻血が」
そして、テレビにアイドル達が踊るシーンが流れる。
話題に上がっていた『X』もステージで踊っていた。
整った顔立ち、可愛らしさと男らしさが同居したような愛嬌とカリスマ。
(アイドルのニュースなんて馬鹿馬鹿しいと思っていましたが……これは確かに、話題になるのも分かりますね)
そして、『X』がニコリと画面の向こうから私に微笑みかけてきた気がした。
いや、違う『私に』じゃない。
会場にいるお客さんにだろう、それをカメラで撮っただけだ。
テレビには色んな芸能人が出てくるけど、興味を持ったことなど一度もない。
一般的には『好きな芸能人』だけでなく、『嫌いな芸能人』というのも存在するのは良く耳にする。
お笑い芸人だったら『何が面白いのか分からないのに売れているのがムカつく』とか。
俳優やアイドルだったら『ブサイクなのに、あるいは性格が悪いのにテレビに出てくるのが気にくわない』だとか。
ほとんどが、『どうぞ、そんなの気にせずに自分の人生に集中してください』の一言で済むような嫉妬ややっかみである。
なのに……どうやら私にとって『X』がそうだったらしい。
テレビであの笑顔を見て以来、私の脳裏には常に『X』がチラついていた。
勉強している時も、好きなゲームをやっている時ですら集中できずイライラする。
わざわざ関わりのない人を嫌うだなんて器の小さい人間である証明のようなものなのだけれど、果ては私の夢の中にまで『X』は出てきた。
夢の中では、『X』がそうしたいと言ってくるので私はいつも仕方がなく手を繋いで一緒に街を歩いてやってたりしていた。
夢の中では、『X』がそうしたいと言うので、仕方がなく抱擁さえもしてやった。
現実だとセクハラで訴えるけど、ここは夢の中だし、満足させてやればもう出てくることもないと考えたからだ。
しかし、日増しに『X』は私の頭や夢の中に現れるようになった。
忘れようとすればするほどに、『X』は今なにをして過ごしているのだろう……なんてくだらないことを考えてしまうのだ。
そして気が付いたら私は――芸能界の登竜門とも言われる探星高校の2次試験を突破していた。
こんなことしたって会えるわけでもないのに……。
というか、会ってどうする?
言うのか? 「貴方が私の頭の中や夢の中に出てきて迷惑しています」って。
頭がおかしいのか?
――しかし、どうにかしないと……このバグを直さないと私の人生ゲームに支障が出ることは分かっていた。
とはいえ、ここまで自分の行動に正当性を見いだせないのは初めてだ。
自分で、自分自身に驚愕しつつ呆れている。
「……私、何してるんだろう」
ため息と共に、再度呟いて私は最終試験の会場である教室に入った。
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