第40話 大人気の作曲家が実は俺な件

 

 アイドル課の最終試験。


 それは俺が『ライアー』名義で作って個人サイトにアップロードしていた曲『スターライト』に合わせて、即席で作ったユニットで踊ることらしい。


 俺が『ライアー』だとバレるのはマズい。

 なぜなら、『ライアー』としてアップロードしている曲は全て『シャーロット』の曲として使おうとしてボツになったモノだ。

 曲調やメロディーに一つとして同じものは無いが、作曲者独特のクセは隠しきれない。

 恐らく、水面下の音楽に詳しい人の中では『シャーロットの曲も作っているのでは?』という憶測も出ているだろう。

 そうしたら『X』の正体がバレるのもあっという間だ。


 そんな風に気をもんでいると、グラサン試験官は説明を続ける。


「振り付けは我が校の講師でもある『ダンス☆ボーイ』さんにお願いさせて頂いた」


「おぉ! 『ダンス☆ボーイ』さん! これまた有名な振付師さんですね!」


 雪華さんは手をパチパチと叩いて喜んだ。


 『ダンス☆ボーイ』、某アイドル系アニメのダンスシーンの振り付けで一躍有名になった人だ。

 誰でも簡単に踊れて、可愛く踊れるダンスを考案するのがとても上手い。

 子供たちが真似して踊っている動画がSNSなどで沢山アップロードされてバズっていた。

 今も売れっ子で、ダンスを見たら何となく『ダンス☆ボーイ』さんの振り付けだと分かるくらい特徴的だ。


「では、今から映像を見せる。これから渡す紙の資料と共に見比べてくれ。映像は通しで3回流すからな」


 そう言って、振り付けが描かれた資料が配られた。

 そして、『ダンス☆ボーイ』さんが他のダンサー4人と共に踊っている映像がプロジェクターから流される。

 その映像を、俺を含めて候補生たちは集中して見ていた。


「…………」


 ダンスはユニゾン(全員で動きを合わせるダンス)のみで構成されていた。

 『ダンス☆ボーイ』らしく、そんなに難しい動きじゃない。

 これくらいなら1時間与えられて練習すればみんなで合わせて踊ることができるだろう。

 可愛くて、とても明るいダンスになっていた。


(……でも、この曲はこんな踊りの為の曲じゃ――)


 俺は心の中の本音を飲み込んだ。

 今は俺の気持ちなんて関係ない。

 この踊りを踊るアイドルたちを見て審査をする。


 ――それが俺の最終試験だ。

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