第38話 めちゃくちゃな答え
『3つのリンゴを5人のアイドルで平等に分けるにはどうすれば良いか?』
出された問題に、俺は腕を組んで考える。
「……えっと、3つしかないんですか? どうにかあと2つ買ってくるとか」
「ダメだ。3つだけだ」
そこを何とか……といつもなら食い下がるが、問題なら仕方がない。
「う~ん、じゃあ……とりあえず嵐山か月読の方法でみんなで分けて――食べて残った種を事務所の庭に植えます」
俺は人差し指を上げて回答を続ける。
「そして、種をお世話して成長させて大きなリンゴの木にして、みんながお腹いっぱいになるまで食べたらどうですかね?」
「……そんなのがお前の答えか?」
「え? 何かすみません」
何となく怒られた気がして俺は謝る。
こうして全員に聞き終わるとグラサン試験官は続けた。
「さて、今答えてもらったようにプロデューサーもアイドルと同じで考え方は様々だ。どれが正しいかは状況に左右される。ゆえにどれが正しいとも言えないし、どれが不正解とも言えない。ただ、今みたいに考えることだ。嵐山の答えをパクッた奴らもそれが最良だと思ったならナイス判断だ。変にプライドが高い奴より余程優秀だ」
グラサン試験官はそう結論付けつつも、俺をギロリと睨んだ。
「――と言っても、杉浦のような屁理屈みたいな答えは、個人的には嫌いだ。ガキじゃないんだ、これからはもう少し大人な回答を用意しろ」
何故か公開処刑される俺。
これが試験じゃなくて良かった。
嵐山には呆れられ、月読には笑われているのを背中に感じた。
「――あらあら、私は好きな答えですよ?」
不意に、教室内に鈴が転がるような、よく通る声が聞こえた、
そして、二十代くらいの綺麗なお姉さんが前の扉から入室する。
「種を育てて沢山の果実を実らせた大きな木にする。それってまさにアイドルを育てることじゃないですか。彼はきっと無意識に未来を見据えたり、成長を助ける方に意識が向いてしまうのですよ」
誰だろう、この人。
そう思った瞬間、グラサンが彼女に頭を下げた。
「み、
「「えぇっ!?」」
候補生である俺たちは思わず声を上げて驚く。
学園長という役職に就いているというには、彼女はあまりにも若すぎるように思えたから。
「杉浦さんみたいなプロデューサーだらけでは困ってしまいますが、1人くらいこんなプロデューサーも必要だと思います」
学園長はクスクス笑うと、グラサン試験官に流し目を向ける。
「――それに、問題の答えについては貴方が言えたことですか。黒田さん?」
グラサン試験官の名前は黒田さんらしい。
まぁ、これからも心の中ではグラサン試験官って呼ぶけど。
「貴方の答えも私は覚えていますよ? 『リンゴは1つがスイカくらいのサイズの特別な品種なのでアイドルはみんな好きなリンゴをお腹いっぱいになるまで食べることができます』でしたね。杉浦君に負けず劣らずの良い屁理屈だと思いました。昔の自分を思い出したからといって杉浦君をイジメるのは感心しませんね」
グラサン試験官は誤魔化すように大きく咳ばらいをした。
お前が一番滅茶苦茶な答えじゃねぇか。
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