第36話 最終試験、開始


 三島は気高いドラゴンのような威圧感を放ちながら俺を睨みつける。


「――なるほど、これを狙って私にも自分と同じ飲み物を選んだんですね。私の身体を気遣うフリをして……少しでも嬉しく思った私が馬鹿でした」


「ゲホッ! ゲホッ! ゲホッ!」


 三島は氷のブレスでも吐くかのような大きなため息を吐いて、咳き込む俺に紫色の綺麗なハンカチを手渡した。


「あ~もう。ほら、これ使ってください」


「あ、ありがと……ゲホッゲホッ! 洗濯して返すから……」


「当たり前です、それお気に入りなんですから。……匂いとか嗅いだら殺しますよ?」


 それだけ言うと、三島は席を立ちあがった。


「じゃあ、最終試験に向けて準備してきますから。貴方は『X』に土下座でもなんでもして連れて来てくださいね。噓じゃなければですけど」


「あ、あぁ……。それで受かったら、三島もアイドルをするんだったな」


 俺がありもしない条件を付けくわえると、三島は呆れたように微笑む。


「まだ言ってるんですか。『X』に言われるならまだしも貴方に言われてアイドルを始めるなんてあり得ませんから」


 ピシャリと言うと、三島はコーヒー缶だけを置いていった。


 これで3枚目、今度は紫色のハンカチも手に入れてしまった。


 全部繋げて、胸ポケットからビローンと出したら二反田あたりは素直に喜んでくれそうだ。

 三島はブチ切れるだろうけど。


 それを胸ポケットにしまうと、俺は控室へと戻った。


       ◇◇◇


「あっ、杉浦どこに行ってたんだよ~! もっと杉浦と話したかったのに~!」


 控室に戻ると、月読がふくれっ面で俺に理不尽な怒りを向けてきた。


「悪い悪い、精神統一してたんだよ。中庭に噴水があるだろ? アレに打たれてたんだ」


「随分と甘い滝行だね~、ってそんな噓に騙される僕じゃないよ!」


 そう言って、月読は何やら俺の胸元でクンクンと匂いを嗅ぎ始めた。


「コーヒーと知らない女の子の匂いがするね」


「お前、鼻良すぎだろ」


 匂いは恐らくハンカチのせいだろう。

 ちなみにこのハンカチ、匂いを嗅いだら殺されるらしいけど月読ならなんか許されそうだ。


「僕を置いて女の子とお茶してたんだ~。あ~あ~、羨ましいなぁ!」


「おまっ、全く羨ましい状況じゃなかったんだぞ。俺は(社会的にも)殺されるかと思ったんだからな!」


「それってどういうこと?」


「そうだな……可愛い猫が居ると思ったら、猛獣だった……みたいな?」


「あはは、なんだよそれ~」


 事情を説明するわけにもいかず、俺はどうにかボカして説明する。


 月読が俺の胸をバシバシと叩きながらケラケラ笑う。


 そんなことをしている間に最終試験の時間になった。

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