第33話 天才とは孤独である

 

 三島の恐ろしい視線に対して、俺は視線を逸らして話す。


「だ、だって……たかが一目ぼれだろ? そんなのよくあることだ。ましてや、相手はテレビのアイドルだし。そんな、良く知りもしない奴なんて――」


「貴方こそ何も知らないくせに! 『X』のことも、私の事もっ!」


 三島は声を荒げた直後にハッとした表情をした。


「……あ、貴方の言っていることは正しいです、正論です。……だからこそ、ムカつく」


 そう言うと、三島は少し葛藤した表情を見せた後に語り始めた。


「……私のこと、顔が良いだけの頭がおかしい妄想女だと思ってもらって構いません。話を聞いてくれますか?」


「な、なんだ……?」


 顔が良いという話はこいつの場合ギャグじゃないのでツッコミ辛い。

 というか、本心っぽい。


「『X』は本当はアイドルをやりたくなかったんです。でも、急遽代役でやらされることになってしまった。だから一度踊っただけですぐに姿を隠したんです」


「……そうかもな」


 俺は手元のミルクコーヒーを飲んで、続きを聞く。

 なんかさっきより甘くなってる気がした。


「才能は求めない人間にも与えられてしまうモノだと思います。でも、黙っていればバレません。周りからせがまれることもない。でも、それが何かの拍子にバレてしまったら。それはそれは面倒な人生になると思うんです」


 言われてみれば、二反田もそうだ。

 そのまま引きこもっていたなら誰にも知られずに不幸な人生を歩んでいただろう。

 才能とは、人に見つけられて初めて才能となる。

 上手く生きている彼女にとってそれは『面倒な事』だそうだが。


「私は勉強も運動も特に苦手なモノはありませんでした。アイドル試験も私にしてみればここまで簡単でした。でも、私は孤独です。私に惹かれて集まってくる人はいますが、共感者がいない。誰も私の気持ちなんて分かってくれません」


 孤独とは客観的にみれば不幸だ。

 三島の気持ちを俺は分かってしまったし、同時に三島の推測は正しかった。


「私は『X』を見てイライラすると同時に何となく同情したんです。『こんなことになってしまって可哀そうだな』って……。きっと、『X』は私と同じだから……」


 そう言うと、三島は思いついたように胸を張った。


「そ、そう! これは同情です! 決してその……『恋?』だとかいう陳腐な感情ではありません! 私だけが彼を理解してあげられるというか、支えてあげられるというか、ただそれだけの気持ちです!」


(いやいやその感情、恋よりもヤバいからな。速攻で依存するぞ)


 俺はもう一口、ミルクコーヒーを飲んで考える。


 それにしても参ったなぁ……。

 妄想女だなんてとんでもない、ここまで俺を理解してくれようとする人なんて今までいなかった。


 確かに、それはもう俺が『単なる一目ぼれだ』なんて切り捨てられるような感情ではなくなっていた。

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