第32話 ヤンデレアイドルに愛される
「う……噓……まさか私が……?」
三島は恋が自覚できていなかったらしい。
というか、この様子だと知らずに生きてきたのだろう。
俺の指摘に分かりやすく狼狽している。
「あ、あり得ませんよ! だって、私はいつだって惚れさせる側で……わ、私から惚れるなんて……そんなの……」
三島は立ち上がり、その勢いで座っていた椅子が後ろに倒れる。
「私が負けたみたいじゃないですかっ!」
「何と戦ってるんだお前は」
俺はため息を吐いて立ち上がり、三島が倒した椅子を戻してやる。
すると、その隙に三島は今度は俺が座っていた椅子に悪びれもなく座った。
こいつめ……。
座る位置が入れ替わり、三島は頬に汗を垂らしながら言う。
「み、認めませんよ……。私が『X』に……こ――強く惹かれ、切ないまでに深く思いを寄せているなんて!」
三島は『恋』という言葉を使うのを避けたようだが、言い換えることでかえって恥ずかしさが増しているように思えた。
――というか、普通は『X』を追って芸能学校に受験なんてしないだろ。
しかも自分以外の女性に笑顔を向けたり、自分以外の女性が『X』に好意を寄せるだけでイラつくなんて。
こいつ、クールなフリして実はめちゃくちゃ独占欲が強いんじゃ……。
とにかく、彼女の悩みの原因を特定できた俺は励ましの言葉をかけてやることにした。
「謎が解けて良かったな。まぁ、初恋なんて基本的に成就しないもんだから気を落とすな。東大高校なら『X』なんかよりもっと良い男がいっぱいいるだろうから、新しい恋でもして『X』なんかのことは忘れるんだな」
「――はぁ?」
三島は底冷えするような声を上げて俺を睨んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます