第30話 『X』が気になるようです
「えっと……じゃあ、そこのテラス席で話そうか」
彼女の熱心なお願い(脅迫)を聞き入れ、俺は彼女の悩みを聞くことにした。
――っと、その前に。
「何か飲みたい物はあるか? 奢るよ、お詫びってわけじゃないけど」
少しでも贖罪になるならと俺が提案すると、彼女は自販機の前までついてくる。
そして、飲み物を指さした。
「じゃあ、これを買ってください」
「これって……エナドリだぞ? 好きなのか?」
「だって、これが一番高価じゃないですか。飲んだことはありませんが、貴方の財布に一番ダメージを与えられます」
「いや、飲みたい物を飲めよ。自分にもダメージいってんぞそれ」
俺は呆れつつ飲み物のボタンを押した。
俺が先ほど購入したのと同じミルクコーヒーが出てくる。
「俺のオススメはこのUCCのミルクコーヒーだ。甘ったるくて美味しいぞ」
「……私はエナドリをお願いしたのですが?」
「エナドリはダメだ。あまり身体に良くないからな。どうしても飲みたいなら買ってやるけど」
「貴方と同じ物を飲むのは癪ですが……良いですよ。そこまでオススメするなら飲んであげます」
俺は自分が飲んでいる物と彼女に買ってあげたミルクコーヒーを持ってテラス席に移動する。
バラのアーチを潜り抜けて、庭園に置かれた銀のテーブルに向い合せで着席した。
缶を軽く振ると、プルトップを開けて彼女に手渡す。
彼女は不愛想な表情で受け取った。
「缶コーヒーのフタくらい、自分で開けられますよ?」
「馬鹿言え、それで爪でも割れちゃったら大変だろ。これから最終試験なんだから」
「……変質者のくせに気遣いはできるんですね」
「俺は変質者じゃない。
「私の名前は三島三言(みしまみこと)です。よろしくお願いいたします、変質者さん」
そう言うと、三島はコーヒーを一口飲んだ。
「甘くて美味しいですね、好みの味ですよ」
「それは良かった。俺への態度もそれくらい甘くしてくれると助かる。あと、同級生だから敬語じゃなくて良いぞ」
「これは貴方という変質者と距離を置くための敬語です。むしろ『
「……それで、悩み事ってなんなのでございましょうか?」
他愛のない会話を交わせば交わすほどに罵倒されてしまうので俺は早めに本題に入った。
三島は右手で頬杖をついて話し始める。
「思うんですけど、人生って死ぬまでの暇つぶしじゃないですか」
「いきなりそんな人生観から入るのか。まぁ、間違ってはないが」
「だから私は、今まで特に何も感じずに生きてきました。どうせ死んだら全て無駄ですから。私は美少女なのでよく告白されるのですが、誰にも興味が持てませんでした。どうでも良いんです」
自慢にもせず、事実を述べているかのような雰囲気で話す。
彼女の氷のように冷めた瞳の理由が少し分かった気がした。
三島は目を引くほどの美少女だけど、別に本人にとってそれは楽しいことではないのだろう。
「――でも、そんな私に凄く"嫌いな人"ができたんです。見るだけで凄くイライラする人が。自分でも驚くくらい……感情が逆立つんです」
「……あの~、それってもしかして」
「あぁ、安心してください。貴方のことじゃないですよ。貴方が嫌いであることは変わりありませんが」
自分じゃないと分かり、俺はホッと安堵のため息を吐いた。
三島は語る。
「数カ月前に現れて、姿を消した。カリスマアイドルの『X』とかいう奴です」
――やっぱり俺じゃねーか。
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