第28話 新しいアイドルとの最悪な出会い

 

「全く、月読も付き合いが悪いなぁ~」


 月読は一緒にトイレに行ってくれなかったので、俺は一人で学園のトイレで手を洗っていた。


 男の友情というのは連れションから始まるというのに、全く。

 合格したら一緒に銭湯にでも行くか。


(最終試験は16時から……まだ1時間以上あるな)


 何故か最終試験だけかなり時間が空いている。

 またアイドルと合同試験だったりするのだろうか?


 とにかく、つかの間の休憩だ。

 俺は自販機でいつも飲んでいるミルクコーヒーを買うと、中庭のベンチに座った。


 流石は日本一の芸能学校、受験料が無料なのも凄いが中庭の景観も良い。

 真ん中に優雅な噴水が立ち上がり、水しぶきが虹を作りながらキラキラと輝いている。

 風が通り抜けると、木々の葉がさらさらと音を立て、花びらが舞い散る様子はまるで芸術の世界に迷い込んだかのようだ。


「……う~ん」


 ベンチに座ったまま両腕を上げて気持ちよく伸びをすると、少し強めの風が吹いた。


「――キャ!」


 その時、女の子の小さな悲鳴が聞こえた気がしたので俺は思わずそちらへと視線が動いてしまう。


 丁度俺が座っているベンチから少し高い位置の外階段。

 長い黒髪の女の子のスカートがめくれ、ネコちゃん柄のパンツを意図せず目撃してしまった。


 俺は伸びの姿勢で腕を振り上げたまま、その女の子と目が合い固まる。


 その子はスカートを両手で押さえつけ、耳に付けていたイヤホンを外すと俺を睨みつけるようにして尋ねた。


「……見た?」


「……み、見てないニャン」


 そう見ていない、ネコちゃん柄のパンツなんて。

 少しクールな雰囲気を纏った彼女が可愛いアニマル柄のパンツを履いているなんて俺は知らない。


 彼女はスマホを取り出した。


「あっ、もしもし警察ですか? 今、変質者が私の下着を……」


「ちょっ、ちょっと待った! ていうか、そんな一瞬で繋がるか! タチの悪い冗談はやめろ!」


「でもパンツを見たことは事実でしょ? 安心して、貴方には弁護士を付ける権利があります。私は全力で死刑を勝ち取りにいくけど」


「分かった、俺のパンツも見せよう! 等価交換だ!」


「貴方のパンツが等価なはずないでしょ。ダイアモンドと炭は原料が同じだけど価値はまるで違うんですから」


 軽蔑の視線を向けられ、にじり寄られながら俺は弁明する。


 残念ながら有罪判決が出る頃にはもう試験は終わっているだろう。

 そして、二反田や月読が「いつかやると思ってました」ってテレビでインタビューに答えるんだ。


「そもそも、これは事故だろっ!? 偶然風が吹いて見えちまっただけだ!」


「白々しいですね。そんな両腕を突き上げてガッツポーズまでして事故な訳ないでしょ? きっと貴方はそこで下から覗き込みながら私のスカートがめくれるのを待っていたんです」


「これはガッツポーズじゃなくて、ちょうど両手を上げて伸びをしていたらお前のスカートがめくれて……猫が居て……」


 最終試験うんぬんではなく、俺は人生の岐路に立たされていた。

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