第26話 見覚えのあるハンカチ
2次試験が終わると、全員の緊張の糸が切れる。
花宮も大きくため息を吐いた。
「なによ~、びっくりしたわ。あんたが落ちたのかと思ったじゃない」
「あのグラサンめ。俺をからかいやがったな」
必死になっていたことを思い出して少し恥ずかしく感じていると、月読は意地悪そうに笑った。
「まぁ、レアな杉浦が見れたから僕は満足だけどね」
「杉浦、俺の為に怒ってくれてありがとうな~! 試験もお前が居なかったら撮影できずに落ちてたよ! 本当にありがとう!」
二反田は嬉しそうに俺の腕にスリスリと頬ずりをする。
マタタビの木の枝に身体をこすりつける猫のようだ。
マーキングされてるのかもしれない。
そんな様子を見て、月読の表情が少し鋭くなった。
「二反田さん? 杉浦も男の子だからあまり密着するのは良くないんじゃないかな?」
「あっ、そ、そうだよな……ごめん。俺、友達居ないせいで距離感が分からなくってさ!」
月読が握ったままの俺の手に力がこもる。
二反田に密着されて羨ましい気持ちは分かるが俺に八つ当たりするのはやめてくれ。
というか、お前もいつまで俺の手握ってんだよ。
二反田が名残惜しそうに俺の腕から離れる。
その直後、綺麗なスーツを着た偉そうな学園関係者の方々がどこからか現れて俺たちの方へと歩いてきた。
そして、二反田に向けて深く頭を下げてお辞儀をする。
「二反田さん、特待生合格誠におめでとうございます」
「……へ? あっ、はい!」
「2次試験でご自分の私服を濡らしたとお聞きしました。プロ根性、感服いたします。ですがお風邪を召されては大変ですので、入学手続きの前に代わりの服をご用意いたしますね。ご入浴もできますので必要でしたらお申し付けください」
「えぇ!? だ、大丈夫です! 少し濡らしただけで上着も持ってるから!」
「承知いたしました。ですが、二反田さんのお身体はアイドルにとって大切な資本です。ご無理はされませんように」
突然のVIP待遇に二反田は困惑する。
そして、助けを求めるように俺に尋ねた。
「な、なぁ杉浦。とくたいせーってそんなに凄いのか?」
「当然だろ。特待生合格した生徒はみんな一流のスターになってる。大活躍してる坂口ミレンとか大崎友恵、工藤沙保里も探星高校の特待生合格だ」
月読と花宮も頷く。
「数年に一度出るか出ないかなんて言われてるね」
「当然だけど、あんた新聞やネットニュースにも載るわよ?」
二反田はことの重大さに気が付いたのか、ガタガタと震えだしてまた俺に泣きついた。
「ひ、ひぇぇ~。ネットニュース……お、俺んちに人が押し寄せる……そうだ! 杉浦の家に泊めてくれよ! そこでしばらく引きこもるからさ!」
「いやいや俺と一緒はヤバいだろ……というか、せっかく受かったのにまた引きこもるなよ!? いいから入学手続きしてこい。俺たちはまだ最終試験があるから」
「そ、そうか……まだ杉浦はまだ合格してないんだもんな……杉浦なら大丈夫だと思うけど……」
二反田は何やら自分のポケットをまさぐった。
「俺が一番大切にしてるお守り、渡しておくよ! 怖い時、不安な時、いつもこれを握ってると勇気が湧いてくるんだ。だから、これがあればきっと杉浦も合格できると思うぞ!」
そう言って、二反田はニッコリと笑って俺に手渡した。
――どこかで見覚えのある青いハンカチを。
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