第23話 美少女を痴漢から救った話

 

【前書き】

二反田ちゃん視点です。

中学生の時の話になります。

――――――――――――――


 俺、二反田にたんだ真子まこはどこにでもいる普通の女の子だ。


 ただ、運動するのが好きで、小学生の時は女の子じゃなくてずっと男の子のグループにいた。

 周りも別に気にしてなかったし、そもそも俺が女だなんて気が付いてなかったと思う。


 でも、中学生になってそんな関係が変わってしまった。

 俺の胸が膨らんできた頃、いつも一緒に遊んでいた男の子に言われた。


「お前と一緒に遊んでると、周りの奴らにからかわれる」


 言っている意味が分からなかった俺は首を捻ってしまう。


「お前が、女だから……。男が女と一緒に遊んでるとクラスでからかわれるんだよ」


 それだけ言って、そいつはもう二度と俺と一緒に遊んではくれなくなった。


 ショックだった。

 俺には男の子の友達しかいない。

 でも、その男の子たちは俺と一緒にいるのが恥ずかしいと言う。


 だから勇気を持って女の子の友達を作ろうとした。

 けれど、地元の中学校で俺は『色んな男に声をかけては遊んでいる女』として女の子たちに裏で嫌われていたことを知った。


 確かに小学校の頃は色んな男の子と遊んでた。

 サッカーをしたり、野球をしたり、プロレスごっこをしたり。

 でも、なんでそれで嫌われなくちゃダメなんだろう。

「アバズレ」だとか言われたけど、バカな俺は意味が理解できなかった。


 俺は突然孤独になってしまった。


 俺の意思とは無関係に胸はドンドン大きくなって、自分が女性であるということを意識せざるを得なくなる。

 恥ずかしいと思いながらも周りに合わせる為、俺はジャージではなくスカートを履いて学校に向かった。


 そんな時、中学校に向かう為の電車に俯いて乗っていると、俺のスカートの下に革靴がにゅっと伸びてきた。

 よく見ると、その革靴の先にはカメラのレンズのようなモノが付いていた。


 鈍感な俺でも何をされているかが分かって、身体中に悪寒が走る。


(お、俺……盗撮されてる……!?)


 怖くて身体が動かない。

 誰か……誰か……助けて欲しい。


 一人の味方も居ない俺はそう思いながら静かに涙を流して耐えるしかなかった。


「――おい、おっさん。盗撮してんだろ」


 そんな声で顔を上げると、一人の少年が盗撮してる人の腕を掴んでいた。

 そして、俺を自分の背中の後ろに隠してくれた。


 俺と同じくらいの年齢の男の子だった。


 その場ですぐに盗撮犯の靴を脱がして全員の前で盗撮用のカメラを暴く。

 周囲の人たちは事態を理解して、その盗撮犯は袋叩きにあった上に警察に突き出された。


 俺を救ってくれた男の子は笑う。


「助けられて良かった。これからは気を付けて」


「ほ、本当にありがとう……! 俺、怖くて……でも、誰にも気が付いてもらえなくて……!」


「俺は可愛い子やカッコ良い子がいないかなって毎日見てるんだ。そうしたら君が泣いてて、気がつけた。俺、アイドルプロデューサーを目指してるからさ」


 そして、青いハンカチを渡してくれた。


「アイドルプロデューサー……?」


「うん。アイドルはキラキラしてて、人も自分も笑顔にできる。凄い人たちだよ! ――あっ、ごめん俺はもう行かないと。そのハンカチは君にあげる!」


「あっ、ちょっと!」


 本当はもっとお礼がしたかったけど……

 お友達になって欲しかったけど……

 その人は名前も告げずに行ってしまった。


「アイドル……かぁ」


 その人からもらった青いハンカチをギュッと握って俺は呟いた。

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