第22話 おバカ可愛い二反田さん


 二反田が絶叫すると同時に、2次試験を落とされた渡辺も声を上げた。


「ふざけんな! そいつ、アイドル服での撮影すらできないんだぜ? 何で俺が不合格で、そいつが特待生なんだよ! 説明しろよ!」


 グラサン試験官は落ち着いたまま毅然とした態度を取る。


「さっきはサービスでお前の改善点を教えてやったが、他の受験生の合格理由は教えられん。ただ、『特待生に値する』と我々が判断しただけだ」


「はぁ? そんなんで納得できるわけねぇだろ!」


 渡辺が喚くと、受験者たちの群衆の中から気だるそうな声が上がった。


「――アホかてめぇは。なぜ分からねぇ? どう考えてもそいつは合格だ」


 声を上げたのは、ポマードで固めた頭髪、顎ヒゲとツーブロックが特徴的な男性。

 1次試験を3位で通過していた嵐山ヒロがポケットに手を入れたままノシノシと歩いて前に出てきた。


「探星高校だって私立高校だ、利益を求めるのは企業とそう変わらねぇ。アイドルは生徒であるとともに名声を獲得するプレーヤーだ。見込みがあれば金を払ってでも獲得する」


「だから、どうしてアイドル衣装にもなれねぇ、自然な笑顔もできねぇ、こんなグズを取るんだって言ってんだよ!」


 嵐山は大きなため息を吐いて、渡辺に凄んだ。


「……お前に分かりやすい例え話をしてやるよ。ドリブルもシュートも下手糞なバスケ選手が強豪高校のバスケットチームの採用テストに合格した。何でか分かるか?」


「……は? 何の話をしてんだよ。そんなの、分からねぇよ……」


「答えは『身長が2メートルあったから』だ。それをズリーだなんだの、知ったことか。バスケで勝つには欲しい選手なんだよ。技術は訓練で伸ばせるが、身長は簡単に伸ばせねぇからな」


 そう言って、嵐山は俺が撮影した雑誌のカバーを手に取って渡辺に見せる。


「順位で負けたのが悔しくてカバーをちゃんと見れてないだろ? 二反田を見ろ。少し着こんではいるが、今回の試験で初めて二反田のプロポーションがちゃんと把握できた。こんなの、どう転んでも学園の利益になる」


 嵐山が言っていることは二反田の身体つきプロポーションが高校1年生にしてすでに理想的であるということだろう。

 大きな胸、太く重量感のある太もも、引き締まりつつも柔らかみを帯びた尻。

 今現在活躍しているグラビアアイドルや人気モデル達と一緒に並んでも勝ってしまいそうなくらいの奇跡のスタイルだった。


「……くそっ!」


 渡辺も認めたのだろう。

 吐き捨てるようにそう言うと、荷物を持って出て行った。


 嵐山は俺と目が合うと、呆れたような目つきでフンッと息を吐いてまた受験生たちの群衆に戻っていく。


 嵐山の話を聞いて、二反田は呟く。


「俺の『プロポーション』……?」


(まずい……今の二反田にまだこの話は早い……!)


 ただでさえ身体を晒すのが苦手な二反田が、『自分が男性たちにどういう目で見られているのか』を自覚するとさらにふさぎ込んでしまうかもしれない。


 二反田は思い当たったかのようにハッとした表情をした。


「……爆発ってことか!」


(それは『エクスプロージョン』だぞ、二反田!)


 そういえば、二反田は中学校にほとんど行ってなかったんだった。

 学力に問題があるかもしれない。


 さらに、二反田は俺に言う。


「なぁ、杉浦。今の話を聞いてて分かったんだが……俺は背が高いから合格になったんだな?」


「あぁ~、うん。そうだよ」


「な、何だか悪い気がするけど。でも、必要としてもらえてるなら嬉しいよ! 小さい頃からいっぱい食べて運動しててよかった!」


 少しおバカな二反田は無邪気に喜んだ。

 ちなみに二反田がずっと俺の腕を挟んでいるせいでしびれてきているが、決してやめてほしくはない。


「以上で2次試験を終了とする! 最終試験まで先ほどの教室で待機するように!」


 こうして、2次試験は終了した。

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