第20話 カーテンコールに彼女は居ない


 2次試験の通過者に自分の名前が無かったのだろう。

 プロデューサー志望の渡辺が喚くと、グラサンの試験官がその前に立って腕を組んだ。


 渡辺は少し怖がって後ずさる。


「……確かに、お前が提出したカバーは良いモノだった。アイドルを変更したのも異論はねぇ、自分の手に負えないと思ったら適任者に任せるのも一つの大切な決断だ」


「だ、だったらどうして……」


「今回の撮影、お前は何をしていた? 全て花宮の指示に従って、自分で何か一つでも提案したか? ちゃんと話しあって進めたか? もっと良いモノが作れたんじゃないか?」


「…………」


 渡辺は押し黙った。

 グラサン試験官は話を続ける。


「今回のテストでは、『表紙の良さ』のみを純粋に採点したから花宮は4位になった。良い雑誌カバーだと思う。しかし、もうすでにどこかで見たことのあるようなポーズ、表情、構図、花宮は予想を超えてこなかった」


 グラサン試験官は、今度は花宮の方を向いて話を続けた。


「与えられた仕事に対して期待に応えるのが一流。確かに花宮は一流のモデルだ。しかし、期待を超えるのが『超一流プロフェッショナル』。それは花宮1人では難しい。そのためにプロデューサーという存在がいるんだ」


 グラサン試験官の言葉を聞いて、結果に呆然としていた花宮は呟く。


「期待を超えてこそ超一流……。あの子はプロデューサーと手を取り合って、自分を超えたのね……」


 そして、どこか満足そうにため息を吐いた。


 二反田が満面の笑みで俺を祝福しに来る。


「杉浦おめでとう! 2次試験受かったんだな! 杉浦なら次の最終試験も絶対に受かるよ! 本当におめでとう!」


 二反田に続いて、花宮も俺たちの方へと歩いてきた。

 そして、ペコリと頭を下げる。


「2人とも、謝るわ。どうやら意識が低かったのは私の方みたい。試験に通れば良いなんて気持ちで写真を撮っていたんだもの、負けても仕方ないわね」


「花宮さん……」


「――でも、次は負けないわ! だって『X』様と結婚するのは私なんだから! だから、あんたも次の最終試験なんかで落ちるんじゃないわよ!」


 花宮が二反田をライバルと認めたような瞳で笑った。


「あぁ、せっかくここまで来たんだ! 二反田も最終試験頑張ろうぜ!」


 俺も二反田を鼓舞するために拳を突き出した。


 そんな俺たちを見て、二反田は頬をかきながら困ったように笑う。


「あはは……その、い、言いづらいんだけど……」


 そして、俺たちに謝るように呟いた。


「俺、2次試験落ちちゃったみたい……。紙に名前、無かったんだ……」


「「……へ?」」

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