第18話 俺たちの順位は!?
「イェーイ! スズちゃんやったね!」
「ひ、ひぇぇ~」
雪華さんは信じられないと言った表情で担当のギャル系アイドル結城美沙さんに抱きしめられる。
「す、杉浦さんが1位じゃないんですかぁ~!? なんか、今凄いそんな流れだったじゃないですか!」
雪華さんの質問にグラサン試験官が答えた。
「杉浦のは確かに驚いたが、男心を掴んだ演出というだけだ。雑誌の種類によっては通用しないしな」
その通りです……。
今回は本当に色々と状況を利用しただけで、雑誌の表紙をちゃんと見てくれた人にだけ伝わる内容だ。
普通のファッション系雑誌の隣に陳列されてしまったら埋もれる可能性もある。
一方、雪華さんの作った雑誌のカバーはインパクトに満ち溢れている。
ペアのアイドル、結城さんがカバーの枠を掴んで、こちら側に飛び出しているような表紙だ。
本棚に並んでいたら見過ごすことはできない。
これはどうやって作っているんだろう。
そう思っていたら、グラサン試験官は解説を始めてくれた。
「これは『トロンプ・ルイユ』とも言われる技法だ。カバーの中に額縁を用意して、被写体の指をその前面に出す。さらにハイライトや影を強調させることで被写体が雑誌カバーの中から飛び出してくるように錯覚させている」
つまり、トリックアートだ。
雪華さんはアイドルの写真とトリックアートを融合させたらしい。
「でも、影やハイライトなんてそんなに簡単に出せるんですか? かなり構図を考えないといけないと思うんですが……」
候補生の一人の質問に雪華さんが答える。
「そ、それは手描きで入れました。わ、私……実はイラストレーターなんですぅ~」
思わず、全員が言葉を失う。
アイドルの写真に手書きで影を書きこむ、そんなの普通思いつくだろうか。
すでに採点は終わっているので、雪華さんの撮影現場を見ていた試験官さんもその時の様子を語ってくれた。
「その場の思いつきではなく彼女は完全に最初からこれを狙っていました。担当アイドルの指のみを何度も撮影して、最後に自分で追加した枠と組み合わせていましたね」
「ゆ、結城さんのネイルがとっても綺麗だったので……どうにかアップで見せたくて……」
「スズちゃん、本当にありがとう! 私、ネイルが一番の自慢なの! こんなに綺麗に見せられて嬉しいよ!」
「きょ、恐縮ですぅ~」
結城さんはもう一度雪華さんに抱き着いていた。
雪華さんの撮影風景を見ていた他の試験官はさらに説明を加える。
「撮影前、結城さんは緊張してガチガチに固まっていました。それに気が付いた雪華さんは序盤にあえてミスを連発。水をこぼしたり、カメラのカバーが付いたまま撮影したり、何もないところで躓いて転んだりと現場の雰囲気を明るくしてアイドルの緊張をほぐしていました。そのおかげで、結城さんも最後まで自分らしく撮影に臨むことができたのです」
「あれ、私の為だったんだ! スズちゃん、本当にありがとー! 大好き!」
「あ、あはは……」
冷や汗をダラダラと流す雪華さんの表情を見る限り、それは本当に天然で起こしたミスだと思う。
とはいえ、その人間性も含めて雪華さんの実力だ。
2年間浪人している間も、雪華さんは自分の武器を研ぎ続けていたんだ。
グラサン試験官は続きの順位を読み上げる。
「――というわけで、2位は木梨愛子・月読葵コンビ、3位が二反田真子・杉浦誠コンビ、4位が花宮れいな・渡辺大輔コンビ、5位が~」
俺たちの名前が呼ばれて、俺はすぐに二反田の顔を見る。
二反田はすでに俺の顔に飛びついてきていた。
「杉浦、やったな! 3位! 3位だぞ! お前のおかげだ!」
「二反田、嬉しいのは分かったから! 俺の頭はバスケットボールじゃないんだぞ!」
二反田は抱えるように抱き着いてくるため、豊満な胸に顔が押し付けられる。
息が苦しいけど、このまま死んでも多分悔いはない。
「そ、そんな……私があの子なんかに負けたっていうの……?」
花宮はこの結果に愕然としていた。
――――――――――――――
【補足】
「雪華ちゃんの作った表紙、どんなの!?」と思った方は『非難からの逃走』という絵画作品を見れば、イメージが湧くと思います!
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