第17話 2次試験、優勝者は…
「――2次試験、終了!」
グラサン試験官が大声を張り上げる。
すでに全てのペアが雑誌のカバー作成の作業を終えて提出していた。
1次試験を突破しているだけあって、みんな優秀そうに見える。
「3浪は嫌……3浪は嫌……ギリギリで良いので受からせてください……!」
雪華さんはそう呟きながら目をグルグルと回して相変わらず顔面蒼白の表情で震えてるけど。
二反田も俺の隣で両手を合わせて祈っていた。
「それじゃあ、全員が提出した雑誌のカバーを並べるぞ! 採点は試験官だが、候補生たちも勉強の為に一緒に見ておけ!」
そう言って教室の真ん中にそれぞれの作品が並べられる。
――その中に、明らかに一つだけ異質なモノが混じっていた。
「……な、なんだこれはっ?」
そして、ザワザワとその動揺は広がっていた。
それもそのはず、今回の撮影では『アイドル衣装を必ず着ること』と言われていたにも関わらずその雑誌のカバーは明らかに私服を着たアイドルが撮影されていたからだ。
背景は夜の街。
走った後のように頬を紅潮させたアイドルがこちらに駆け寄って手を振っている。
そんな雑誌のカバーだった。
お察しの通り、俺が提出した雑誌のカバーだ。
二反田はアイドル衣装での撮影が難しいので、私服を着てもらって撮影した。
これなら撮られても恥ずかしくない。
それを見て、花宮は高らかに笑う。
「ぷっ! あっはっはっ! やっぱりアイドル衣装を着てないじゃない! これで失格ね!」
「さぁ、どーだろーな」
俺は花宮に笑われながらも腕を組んでその行方を見守る。
やがて、俺の作った雑誌のカバーを見た試験官たちは目を細めて言った。
「いや、よく見ろ。これ、『着てる』ぞ」
「本当だ、服の所々からアイドル衣装がはみ出してるし、薄っすらと透けて見える」
そう、俺は二反田にちゃんとアイドル衣装を着せている。
これでルールは破ったことにならない。
「2次審査のルールは『アイドル衣装を着せること』だ。その上に着せちゃいけないなんて言われてないからな」
花宮は俺の発言に再び鼻で笑った。
「あら? 確かにルールは守っているようね。でも、こんな色気のない私服なんかじゃ魅力がないわ。苦し紛れに写真だけ撮ったようだけどこれじゃ最下位よ」
「それが、苦し紛れじゃないんだなー」
俺が花宮の癖を真似て指を左右に振ると、花宮は不思議そうに首をひねる。
「確かに、これはルール上問題ありませんねぇ」
「しかし、一体どうしてわざわざアイドル服を隠して上に私服を――はっ!?」
そして、試験官たちは俺が雑誌のカバーに大きく載せた『文字』に注目した。
そう、今回の試験は雑誌のカバー作りだ。
無論、キャッチコピーも載せられる。
そこに、俺はこう書いた――
『お待たせっ! ここからは君だけのアイドルだよ!』
そして、男性試験官たちは全員思わず唸る。
「なるほど……!」
「これは、『そういう話』か」
「うん、これは特別感がありますねぇ」
しかし、花宮だけは理解できずに相変わらず首をひねる。
俺は説明してやった。
「花宮、お前が言ってた"優越感"ってやつ。俺なりに考えたよ。みんなの人気者であるアイドル。そんな彼女がもし自分と付き合っていたら……これはそんな妄想を形にしたカバーなんだ」
そう、俺は雑誌のカバーでストーリーを作り出した。
テーマは『アイドルとのお忍びデート』である。
自分のライブが終わった直後のアイドルが来てくれた。
男ならそんなシチュエーションだとすぐに察しがつくだろう。
バレたらスキャンダルになるという背徳感。
彼女はそれを覚悟で自分に会いに来ているという特別感。
ついさっきまで何千人というファンの声援を浴びて踊っていたアイドルが、自分とだけ一緒にいるという優越感。
笑顔でこっちを見つめている表紙の二反田と目が合ったら、そんな妄想の世界に引き込まれてしまう。
俺の意図が分かった様子の花宮は爪を噛んで悔しそうに二反田が表紙のカバーを睨みつける。
「……そういうことね。でも、まだ結果は分からないわ」
俺の作ったカバーだと分かって、月読が俺にウインクした。
「やるね、杉浦。これはすごく面白い。それに他のカバーはみんな同じアイドル衣装だから、この場では私服が逆に目立ってるよ」
月読も太鼓判を押してくれて、俺は自信をつける。
「ありがとう。それに薄着よりも厚着をしている方が逆に想像力をかきたてられる、そうだろ? 月読?」
俺が同意を求めると、なぜか月読は顔を真っ赤にした。
「そ、そうだね……ぼ、僕も男だから分かるよ……」
◇◇◇
「試験官による採点が終わった! 今回の雑誌のカバー撮影、第1位は――」
グラサンが口頭でドラムロールをする。
意外におちゃめな人なのかもしれない。
全員、もう何となく分かっていた。
今回の優勝はあのペアだと。
――そして、やはりその名を呼んだ。
「
「――はい?」
後ろの方にいた雪華さんは呆けたように返事をした。
そして、一斉に自分を見ている視線と拍手の音から事態を理解して絶叫する。
「――えぇぇぇぇ!? わ、私が1位~!?」
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