第7話 正体を隠して入学します!
(な、なんてこった……)
テレビやSNSでは俺が再び舞台に上がることを望む声ばかりだ。
俺がしたいのはアイドルのサポートだ。
自分が輝くことじゃない。
輝きたいと思っているアイドルの手助けをして、人々を笑顔に変える。
そんな、かけがえのないお手伝いをすることだった。
「すみません……俺が迷惑をかけたばかりに。これじゃ、もう……」
「…………」
電話口の
こうなってはもう、彼らのそばにいることはできないだろう。
俺は意を決して思いを口にした。
「俺、マネージャーを辞めます。みなさんをアイドルの頂上まで連れて行くことができなくてすみません」
「……そうか、ちょっとそのまま事務所で待ってろ」
「……? はい、分かりました」
数時間後、来れない
どうやら送別会を開いてくれるらしい。
「事務所の外はテレビカメラだらけだったな」
「取材禁止の張り紙を貼っておいたから、お前が外に出なければ大丈夫だと思うぜ」
「はぁ~、とっておきだったけどな。お前の門出だ、仕方がない」
「み、みなさん……! ありがとうございます! 俺のためにこんな……」
感激すると、メンバーはバツが悪そうに頭をかく。
「……その、俺たちもこれからは心を入れ替えてアイドル活動頑張るよ」
「あぁ、あんなに大勢の観客の笑顔。初めて見たぜ」
「俺たち、なんでアイドルやってるか分かった。ああやってみんなを笑顔にするためだったんだな」
「そのために、お前はずっと頑張ってくれてたんだよな……」
メンバーたちはそう言って、今までの俺への扱いを謝罪しつつ頭を下げた。
「……なぁ、良ければ俺たちと一緒に」
「――和馬(かずま)! やめろ、今までの俺たちの行動を振り返ればこれは当然の結果だ」
「あぁ、これ以上クソマネ――杉浦の足を引っ張るべきじゃねぇ」
「大人気アイドル杉浦の物語はここから始まるんだからな!」
そう言って、笑顔でフルーツジュースを乾杯をするみなさんのお話に俺は首をかしげる。
「――えっ? 他のアイドルのマネージャーをやりますよ? 俺がアイドルになりたいわけじゃないので」
「「「「は?」」」」
場は静まり返り、『――キュポン』というビンのコルクが抜ける音だけが事務所内の部屋に響いた。
残念ながら、俺はメンバーの皆さんよりも
お客さんの笑顔、それだけじゃない。
俺が見たいのはお客さんを笑顔にできたアイドルたちの喜ぶ姿。
その両方だ。
そんな俺にメンバーの皆さんは口々に質問を投げかける。
「またアイドルを探すったって……どうするんだよ。次の働く事務所決まってんのか?」
「いいえ! とりあえず、高校に通う予定です!」
「高校……? 杉浦っていくつなの?」
「俺はみなさんと同じ16歳ですよ! 1年遅れになりますが、来年の4月に新入生として入学したいと思ってます!」
「お前、中学卒業してからすぐに就職してたのかよ……若いとは思ってたけど」
「家、追い出されちゃったんでお金が必要で……今回のライブの成功で学費が集まったんですよ! みなさんのおかげです! 支払ったらまた貧乏暮らしですけど、あはは」
「だが、お前の顔はもう全国的に知れ渡っちまったぜ? 高校なんて行ったら大変なことになるんじゃないか?」
「はい、ですから俺はしばらくこの格好ですね……。眼鏡とこのボサボサの髪ならバレないと思います! そして――」
俺は力強く拳を握った。
「日本最大の芸能高校、
俺は正体を隠して入学する。
謎のカリスマアイドル『X』、それが俺だとバレないように。
アイドルの笑顔も、お客さんの笑顔も、全部手に入れられるように。
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