第7話

 森の中に入って十分ほど経った。奇襲されないように索敵しながらの慣れない森歩き、しかも鉄の剣を持っているから早くも息が上がりそうだ。


「少し休憩しないか?」

「まだ少ししか経ってないぞ。本当にやる気あるのか」


 呆れながら言われてしまった。

 もちろん、やる気はあるさ!元の世界に残してきた妹が心配だしな。ただ、体力が無いだけなんだ。中学、高校と帰宅部でまともな運動なんて体育ぐらいしかやってなかったから……。


 はあ……運動してこなかった過去の俺を叱ってやりたいよ。


「いたぞ、あそこだ」


 俺が自分の体力の無さに嘆いていた時、アシェルが十数メートル離れた場所に魔物を見つけた。指を指してる場所を見ると、一メートルほどの大きさの鼠がいた。


「あのでっかい鼠が魔物なのか?」


 声を抑えてアシェルに尋ねる。


「善斗やれるか?」

「もちろん、鼠一匹ぐらいやってやるさ」


 戦う前に『見通す目ルガルデ』を使い鼠を見た。



【大鼠】

 アルメシアに生息する最下級の魔物。武器を持つ大人なら容易に勝てる。



 情報を見た通りなら簡単に勝てそうだ。ただ、何があってもいいように気を付けて行こう。


 俺はアシェルから離れて音を立てないように少しずつ鼠との距離を詰めていく。残り五メートル程になって鼠がこちらに気づいた。


「ヂュウ!」

「気づかれたかっ……!」


 俺は急いで剣を構えた。その間に鼠は俺に向かって勢いよく突っ込んできた。慌てて横にズレて躱し、鼠に向かって剣を思い切り振り下ろした。


「ヂュウアアァ……!」


 剣は鼠の胴体に深く食い込んでいく。剣が肉を裂く感触に思わず顔をしかめる。それでも、手を緩めずに最後まで振り切った。


 鼠は、今の一撃で死んだのか、ピクリとも動かない。念の為、もう少し観察しようとしたときアシェルが声を掛けてきた。


「よくやった善斗!弱音ばかり吐いていたがやれば出来るではないか」

「この剣のお陰だな。流石に素手じゃ、もっと苦戦してたと思う」


 あまり役に立たないと思っていたが、『見通す目ルガルデ』は意外と役に立つな。少ないとはいえ、相手の事を知れるのは安心感に繋がる。


 お陰である程度は冷静に戦えたし、初めてにしては上出来だな。ただ、生き物を殺す感覚は良いものじゃないな。


 これからも魔物と戦って行くんだから、この感覚にも慣れていかないとな……。


「何をぼーっとしておるのだ。早く星石を取らぬか」

「それも俺がやるのか?」

「当たり前だろ。何故我がしないといけないのだ。お主の目的の為の物だろう」


 そう言われては反論なんて出来ない。アシェルを付き合わせているのは俺の方なんだから。


 俺は剣を手に鼠の前でしゃがみ込んだ。アシェルに星石の場所を聞いたら、心臓の近くにあると教えてくれたので、気持ち悪いのを我慢しながら鼠の星石を取り出した。


 星石は小指の爪程の大きさで蒼い半透明の物だった。とりあえず星石をポケットに仕舞うと、新しい魔物を探すため、また森を歩き始めた。


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