陰陽由実

どうして私の腕は、男子みたいなパワーを持ち合わせていないのだろう。

剣道着から覗く、白くて細っこい、しかし女子の中ではそこそこ筋肉のあるであろう腕。


剣道では、片手素振りと言う左手のみで柄頭つかがしらを持ち、通常の素振りと同様に振るものがある。


男子と同じスピードで振ることができないのだ。

精度を捨て、スピード重視で振ってみたとしても追いつけない。

部に他の女子がいないし、合同稽古に参加しても女子に巡り合える機会がなかなかないので平均がどれほどかは分からないが、由々しきことであるのは間違いない。


先日、稽古中の体当たりでどっしりと構えていたはずなのに、いとも簡単に吹っ飛ばされてしまった。

なんなら背中から倒れた。

自分がいくら勢いをつけて体当たりをしたとしても、びくともしないのに。

なんなら勢いを柔らかく包み込んで無効化されてしまう。

これではいくら猛攻をしたとしても剣が通らないではないか。

……本末転倒である。


部の後輩に上段使いの子がいる。

剣道の上段での打突は、一般的な中段と違って左手のみで振り下ろすのだ。

その威力は本当に半端ない。

試しに自分がやってみた時など、竹刀が重すぎて面を滑るように落ちた。

竹刀の重さで落とすように振る、などとよくいうが、重すぎて制御のできる「落とす」ではないのだ。

「落下」の方がある意味では正しいかもしれない。

自分の普段使いしている中段でも、いや、攻撃特化の上段と一般的な中段を比べるのは少し違う気もするが、それでも私は後輩ほどの威力など出せないであろう。


そりゃあ、剣道はパワーだけが全てではない。

柔軟性や小回りの効きやすさなど、女子には女子なりの武器がある。

それでも男子ほどのパワーはどうしても持ち合わせていないことに、どうも悔しさのようなものを感じてしまう。



私は細っこい腕を胴着に隠し、規定により、男子よりも軽い竹刀を持って更衣室から道場へ出た。


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陰陽由実 @tukisizukusakura

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