教師と生徒

1

「痛ったぁ!」

紙の束が、形状と回転による不規則な音をさせながら俺の顔に当たり、年齢の割に速かった、といえる速度と相まって少し硬質な着弾音を立てた。

「おー、先生ナイスボール」「ボールじゃねえし当たってるけどな」

「いきなり投げるー?」「うわー、体罰ー?」

「うるさいわ!そいつがいきなり文句を言うからだ!」

当事者の感想とは外れた調子の感想とツッコミ、教室全体に聞こえる声量のこそこそ話をBGMに、教師がツカツカと歩み寄ってきた。


「おい、なぜお前はいきなり不快にさせるようなことを言った。」

「えぇと…つい、思ったことが口に。」


痛みに顔を押さえながら口答する俺に対し、立ったまま腕を組みながら睨む教師は続ける。


「つまり、本音ということだな。」

「…はい、そうですね。」



否定せず追答したが、怒りを感じる沈黙がしばし流れた後。

1つため息をついた教師は、落ち着かせた声色で言った。


「お前が今から何を学ぶのか、なぜそれを学ぶのか。

それを理解し、知識として身につけ、今後のお前自身の糧とする。

学問とはそういうものだ。

どう思う?」

「…その通りだと思います、はい。」


感情の落差に戸惑ったが、その言葉をもう一度頭の中で繰り返してから、なるべく短く返答する。


「では、それだけで良いと思うか?」


続けられた短い問いに、何を言われているのかどう答えるべきか、逡巡する間に展開していく。


「答えは否だ。

仮にお前がその本音を是正し、この国が求めるように正しく理解したとして、何もしなければ意味は無い。

大事なのは、その知識をどう活かすかだ。」


教師は、時折り間を置きながら続ける。


「私は歴史を教えるが、主にはこの国の土地と、その周辺で起きたら物事となる。

なぜか?

お前が此処にいるからだ。」

「お前は他の国の人間ではないな?

そうであれば、この国から見た歴史しか知らない筈だ。

それはつまり、この国にとって調だ。」

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