群像的小説(仮)

藍上嗚

序章

プロローグ

人は1人では人足り得ない。


自己を認める者があってこそ自己がある。

他者を認めてこそ自己を知る。

同相と異相、長と短、対立と協調、個と群、進展と停滞、罪と罰、支配と従属、そして生と死。


一方があってこそ他方があり、それらは全て自身の存在を認める者がいなければ成り立たない。

何者かに出会い、相違を知り、互いに認めることで個は群れと成り、相互の成し得る事柄を持ち寄って営みとする。

時に対立し理解し、反発し同調し、自身の価値を知る。


年を経る中で優れた者は劣る者を支配し導き、劣る者はその庇護の元に集い持てる力によって支え、

寄って齎された技術と磨き上げる知識が新たなモノを産み育て、その優劣によって群れは集合と離散を繰り返し、その度に仮初の臣従を結び、解れては争い、その屍の上にまた集う。


同じ土の上に積み重ねた人の数は、時に尊ばれ時に蔑まれ、撒かれた砂粒が撥ねられながら拡がる様にその生存し得る範囲を拡大し、それを統べる者によって群れから村となり町となり国となった。

それでも尚、相異なる其れらは、己こそが優れた者と吹聴する其処らの者と同じように、愚かにも奪い合い占有し、まさに飽きることを知らぬ餓鬼の如く全てを欲し、限りがあると知れば他者と分け合うことを良しとせず、仕切りを以って内外とした。


そうして飲み呑まれ、成長と停滞、繁栄と衰退の果てにある現在、から見た過去。


それが歴史である。





「めんどくせぇ…」

「文句を言うな!」


つい口から出た本音を聞かれ、しまったと思い前を見た時には、教壇から投げられただろう教科書が、視界を覆っていた。

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