第6話
「…は……な…」
寝言だろうか。名前を呼んでいる。明らかに女性であろう名前に胸が痛くなった。毛布を掛けて自分の部屋へ戻る。窓からは眩しいくらいの大きな月がこちらを見ている。今日は月がやけに白い。
今更だが縹さん含めこの世界の人は魔法を使う。物を浮かせたり、傷を治したり、衣服も魔法で作っている。私はそういったことが出来ない。みな得意不得意があるのだろうか。縹さんが短くしてくれた髪の毛は伸びない。少しだけ伸ばしてみたいと思うようになったのは茉莉さんが作ってくれる服が美しく可愛らしいものが多いから。
今日は白のタイトミニスカートに同じく白のブラウス。シアー生地で中が透けるので白いレースのインナーを合わせる。それからお給料で買ったイヤリングはパールが美しい。そして縹さんがプレゼントしてくれたブーツを合わせて街へ出かけた。
「舛花お姉ちゃん!」
「うい。なんだか久しぶりだね。」
「お仕事忙しそうだったもん!鶸街に行ったんだよね!どうだった?」
「とても綺麗だった。はい。お土産。」
小さい箱を渡す。ありがとうと喜ぶうい。箱の中にはポシェット。羽の刺繍がしてある。
「僕と同じ色だ!」
「うん。ういの名前漢字で書いたら羽に衣かなって思って羽の刺繍してもらった。」
「嬉しい!毎日持ち歩くよ!」
無邪気な笑顔に気持ちが軽くなる。今日はういの家族とピクニックの約束をしていた。天気も良く少し小高い丘でシートを広げて茉莉さんの作ったお弁当を食べる。周りも同じようにシートを広げている人たちがたくさんいる。心地よい風が吹いて夏なのに暑過ぎない。
「舛花ちゃんは魔法使えるようになった?」
「いえ。まだ何も。」
「素敵な魔法が使えるようになるといいわね。」
「はい。ういは魔法使えるの?」
「うん!光を出したり、基本魔法なら学校で習うから!」
学校か。私はこの世界では何歳なのだろう。3人と別れて夕陽が差し込む街をゆっくりと歩く。少し歩くと見慣れた後ろ姿。名前を呼んで駆け寄ると彼は笑顔を浮かべた。今日あった出来事を話しながら帰路に着く。
「今日の服装初めて見た。」
「はい。下ろしたてです。」
「よく似合ってる。」
嬉しい。足元を見ながらにやついてしまう。
「よく笑うようになったな。」
その言葉に首を傾げてしまう。というのも、この街に来てから割と笑っていたつもりだったからだ。そんなに笑っていなかったですか?と聞くと焦ったように笑っていなかったと訂正された。
大きな月がまた顔を出して空が紫色にも見える。星が美しく輝いていて眠るのが惜しいと思った。
少しだけ散歩しようと街外れに来た。そしてそのまま水に足を入れて初めて自分が目を覚ました方に歩いてみることにした。街灯も灯りもないのに月明かりで辺りは暗くない。船に乗ってのんびりしてる人もいる。靴は脱いで手に持って歩く。少し歩くと見覚えのある島が見えてきた。小さな孤島だ。ドーナツ状になって真ん中が湖みたいになっている。草むらに寝転んで目を閉じると寝てるわけではないのに夢のようにリアルな光景が頭に流れ込んでくる。
「……!学校の時間よ!」
自分を呼んでいるのだろうか。
「もう…!ほら起きて!制服きて!」
女性が指差す方を見ると真っ黒な学ラン。首を傾げる。制服ってスカートじゃないのか?自分の身体が女性であることはわかっている。この夢の私は男性なのか?声も出ない。そのまま制服を着せられたが違和感がない。まるでいつも着ているかのよう。
「うん。やっぱりブレザーより学ランがお母さんは好きだな〜。よく似合ってる。」
そして部屋を出ると真っ白になり目が開いた。目を開けてすぐ視界に飛び込んできたのは縹さんだった。驚いてすぐに身体を起こすと彼は安堵した顔をして私を抱きしめた。
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