第4話


「警察は必要…ですか?」

「ただ死んだ者が集まるのとはちょっと違うんだ。自分で命を終わらせた者が集まるんだ。なにが起こるかわからない。守る者も必要だ。」


背筋を真っ直ぐ伸ばし前を見る縹さんの横顔はとても悲しそうだった。

街の外れにつく。空が反射して真っ青。


「ここって海ですか?」

「いや、水は動かない。川でも海でも湖でもない。大きな水溜まりというのが正しいのかもな。お前はあそこにある小さい島から歩いてきた。普通はもう少し先の島で目が覚めるんだ。そこから少し歩けば、役所のような島があって街や名前を選べるんだ。」

「そうだったんですね。ういも私と同じだったんですか?」

「いや、ういは別の街の夫婦の子供だ。あの島に捨てられていたんだ。」


現実らしい事実に胸が苦しくなる。


「一年ほど世話をしていたがあの夫婦には子供ができないというので悩んでいたみたいでな。養子になったんだ。」

「ういは何故師匠って呼ぶんですか?」

「質問ばっかりだな。そろそろ帰るぞ。


舛花(せんか)」


驚いて彼の方を見上げた。少年のような笑顔で笑う縹さん。


「漢字は舛花色という色の名前から取った。灰色がかった青で俺が好きな色だ。ますはなだと古臭いだろ。だから舛花。」


何故か泣きそうなる。


「嫌ならまた考える。」

「嫌なわけないじゃないですか!嬉しい…」


どうしてこんなに優しいのだろう。見ず知らずの私に。朝より服装のこともあって隣を歩くのが恥ずかしくない。ヒールがあって目線が近い。全て新鮮で変な感じだ。


その日もぐっすり眠った。

それから何もしないのは嫌だったので縹さんの仕事のお手伝いをした。自宅でできる書類の作業ばかりだったので家の掃除や食事の支度もして過ごした。


四季があるようで季節は暑い夏になった。


「遠征ですか?」

「少し離れた街に行く。1週間家をあけることになるから一緒に行くか?」


そして初めてこの街を出る。歩いて行くのかと思ったら、まさかの馬だった。


「こい。」


手を引かれて縹さんの前に座る。馬の振動で心臓の音が聞こえないのが幸いだ。縹さんの部下も一緒で少し走ると雨が降り始めた。


「雨、降るんですね。」

「ここんとこずっと晴れていたから珍しいな。」


声が耳に近くて熱くなる。1時間ほど経っただろうか大きな街に着いた。浅葱街とは違うカラフルな建物が並ぶ街だ。


「鶸街だ。ここは芸術家が多い街で、島全体がキャンパス。綺麗だろ。」

「はい。とても美しいです。雨もちょうど止みましたね。」


スマートに馬から降りる縹さんとは違い私は降りれずにいる。すると彼は手を伸ばして


「舛花」


そう呼んだ。手を取り彼の胸に飛び込むように降りる。心臓の音が聞こえた気がした。

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