第3話 悲劇よりラブコメ
ガラスペンを手に入れたウィリアムは浮かれ具合も相まって精力的に執筆活動をこなしている様子だ。
でも次は本格的に執筆する物語の内容で悩んでいるらしい。
「どんな話なんすか?」
「ん~……悲劇の恋を描いた物語なんだけどね……いつかこの戯曲を上演させることが僕の目標さ。これ以外にも書きかけはたくさんあるんだけどね。それに実はタイトルはもう決めているんだ」
「へぇ……なんてタイトルなんすかね?」
「ダメオとジョルジーニョ」
「――うん。それは変えたほうがいい気がするっすね。名前がすでに悲劇っす」
ウィリアムは私の言葉にショックを受けたのか悩んでいる様子だ。
逆になぜそのタイトルにしたのか、小一時間問い詰めたい衝動に駆られるけど、我慢我慢。
さらにいくつか作品候補があるようで、思い出したように机の端に積んでいた書きかけの原稿を手に取ると、
「なら、こっちはどうだい? この作品のタイトルは『リア充』っていうんだ」
「あなたの感性に時代が追い付いてないので、止めた方がいいっすね」
さらに頭を抱えだすウィリアム。
どういう経緯でその言葉にたどり着いたのか、そっちのほうに興味が出てしまうじゃないか……。
「やはり僕に才能なんて……」
「ペンも新調したわけですし、気分転換も兼ねて新しい作品を考えたらどうっすか? そうっすね……例えばラブコメとか」
「ラブコメ……!? そ、それはどういう物語なんだい!」
食いつきがすごい。
「あ~だから喜劇っすね。恋愛が主体の。重要なのはどれだけ魅力的な女の子を描けるかっす! 男は放っておいてもモテるんで女の子が重要っす! そして
「楽しい物語になりそうだ……! 早速取り掛かろうじゃないか! ブッコロも協力してほしい!」
「もちろんっすよ!」
私たちはこの日からラブコメ作品の執筆に取り掛かった。
柔らかい口調とその素朴な人柄。さらに人を引き付ける魅力という名の双丘を持つ農家の娘がヒロインだ。これは正直私の好みをごり押しした結果である。
そして対する魅力的な
育ちの良さを鼻にかけることのない、庶民と同じ目線で話を聞くことができる活発な女性。これは正直ウィリアムの好みだ。
時に励まし合い、時に好みの展開で意見がぶつかることも少なくはなかった。
でも、私たちは後世に語り継がれる名作になることを信じてやまなかったんだ。
「いよいよクライマックスだ……! ほんとに……きみの協力に心からの感謝を!」
「いやいやウィリアムの熱意あればこそっすよ! でも最近徹夜続きっす。素晴らしいラストを飾るためにぐっすり寝てラストスパートの英気を養うっすよ!」
「うむ……! たしかにその通りだ! 今日は多いに食らい多いに睡眠を取り明日から駆け抜けようじゃないか!」
私とウィリアムはワインとエールでちょっと気の早い乾杯と共に夜通し騒ぎ通す……はずが、今までの疲れが出たのかほんの三十分ほど騒いだくらいでウィリアムがテーブルに突っ伏して熟睡モードに。
私もウィリアムに毛布をかけ、眠りにつくことにした。
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