第2話 羽根ペンより有隣堂のガラスペン

 翌日。

 私が起きた時、すでにウィリアムは机に向かっていた。

 と言うよりも寝てないんじゃないか?

 丸めて捨てられた原稿を広げると執筆中にペン先が引っかかって破れていた。


「おはよう。ブッコロ。よく眠れたかい?」


 私の足音で気が付いたのか、椅子にもたれ掛かりながらこちらに視線を流すウィリアム。


「おはようさんっす。ウィリアム。ぐっすり眠れましたよ。でもウィリアムは寝たんすか? この散らかり具合からして……」


「ははっ! きみの話を聞いてから手が止まらなくてね! まともなペンであれば物語の一つも完成していたかもしれないよ!」


 ウィリアムは握りしめた羽根ペンに視線を落としながら笑っている。

 昨日メモを取る時も書きにくそうだったもんなぁ……


「買い替えればいいのに……ってそう簡単にいかないんすかね?」


「そうだね……僕のは安物だけど、いいものだとそうだね。例えば最高級の羽根ペンは『カクヨム鳥』っていう鳥の羽根を使うんだけど……鳥の可愛らしさとはかけ離れた可愛くない値段になっているからね」


「なるほど~……じゃあ試しに私の羽根使ってみます?」


 私の提案にウィリアムは歓喜の声と共に大きく頷き、目を輝かせている。

 ――と思ったら私の風切り羽をあっさり引っこ抜いた。


「痛ぁぁぁいッ!! 抜け落ちたのにしてくれればいいのに……!」


「お~~! すまないすまない! 一刻も早く試してみたくて、つい……ね!」


 羽根の元を少々加工した後に試し書きに取りかかるウィリアム。浮かれ具合が私に伝わる程度には頬も緩んでいる様子だ。

 しばらく書き綴っていくと……


「おぉ……これは……」


「どうっすか? どうっすか? 滑らかすぎてびっくりしました?」


「ここまで書けない羽根ペンは初めて使ったよ……」


 この世界にはオブラートってないのかな? そりゃ歯に衣着せぬ感想もでてくるよね。


「困ったっすね。お金なんて私も……あっ!」


 私の羽角収納を探っていると……『文具王になりそこねた女』という、名誉ある二つ名を授かっている岡﨑さんからもらったガラスペンを入れっぱなしなことに気が付いた。


「じゃ~これならどうっすかね?」


 私がガラスペンを差し出すとウィリアムは、オーバーなリアクションと共にペンを受け取り早速試し書きを始めた。


「こ……これはカクヨム鳥の羽根ペンに劣らない書き心地だよ! アメイジングだ! さっきの羽なんて使っている場合ではないよ! ペン軸もとても美しいしね!」


 自分の気持ちに素直すぎる人との付き合いってナチュラルに傷つく覚悟も必要ということを、私は実体験と共に理解することができた瞬間である。


 多少思う所もあるがお世話になってる以上、私は黙って白い目を向けるに留めた自分を褒めてあげたいと思った。

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