有隣堂でも知らない世界

赤ひげ

第1話 私の名前はR.B.ブッコロー

 私の名前は『R.B.ブッコロー』。

 突然変異のミミズクだ。


 私の仕事であるYouTubeの『有隣堂しか知らない世界』というチャンネル向けに『web小説の世界』という動画の収録を終え、後は有隣堂でラブコメ書籍を買って、ゆっくりと読書に耽る予定……だった。


 買ったついでに有隣堂のバックヤードに顔を出して……

 お茶を飲んで……

 収録疲れでうとうとして……

 そこからの記憶が曖昧なんだよなぁ……


 何がどうしてこうなったのか。

 結論から言わせてもらうと私は見覚えのない部屋で今、目を覚ました所だ。

 様々な書籍が並んでいる部屋ではあるけど、どう考えてもバックヤードじゃ~ない。

 だって本棚も部屋も現代ってより中世くらいのような、言うなら十六世紀くらいな雰囲気を醸し出しているんだよね……


 さらに私の前では机にかじりつき何かを必死で書きこんでいる男の姿がある。

 書きこんでは紙をくしゃくしゃに丸めて背後へ放り投げてるけど、狙っているかのように私の頭に当たってるんだよね。

 気づいてるわけじゃないよね? 狙ってる? いたっ……!


 しばらく眺めていたけど、ここでぼけっとしていても何も始まらない。

 私はコミュニケーションをとるべく、一歩前に進んだ。


「あの~すいません! ここってどこっすかね……?」


 私の声に肩を跳ね上げた男がぎこちなく首を回す。

 男は私の姿を確認すると、


「ここは僕の家。執筆部屋だけど……きみは何者でどういう仕掛けだい? 梟が喋るなんて」


「いえ、私はミミズクっす。そして名前はR.B.ブッコローと言います」


 有隣堂の社員は私が喋ることに驚愕していたのに、この人はすごい冷静だ。


「それはそれはご丁寧に。僕は『ウィリアム』。売れない物書きさ。よろしく」


 受け入れるの、はやっ!

 椅子から立ち上がる気配もないし、こういうことに慣れっこなのかな……いや、そんなわけはないか。

 でも今はそんな細かいことを気にしていてもしょうがない。


「じゃあウィリアムと呼ばせてもらうっすね! え~っと実は――」


 私の説明に怪訝な顔を向けることなく、先程までとは打って変わって興味津々の煌めいた瞳で頷くウィリアム。正直今の私は怪しさ全開だと思うんだけど、ウィリアムはそう思っていないのか、思っていても興味が優先されているのか……


「なるほど……Mr.ブッコロ。きみの話はとても興味深い! あ、ちょっと待ってね……」


 ウィリアムは私の話の内容を紙に走り書きしているようだ。

 時折、ペン先が引っかかるようで苦々しい表情でペンを睨みつけていた。


「よし! じゃあこうしよう! きみは原因が分かるまで僕の家に住むといい! 宿泊代はきみの世界の話。どうだい?」


「えっと……ありがたいっすけど、そんなあっさり私の話信じちゃっていいんすか?」


「真実かどうかは僕にとって重要じゃないんだ! 僕にとって重要なのはきみの話がとてもファンタスティックだと言う事さ! 今後のことなんかは、ぐっすりと眠り忘れてしまうことをお勧めするね!」


 今日の収録の影響か、私も案外今の状況を受け入れている状態だ。

 カクヨムの異世界モノのような怒涛の展開が待ち受けているわけでもなく、ゆるりとした流れで、私とウィリアムの共同生活が始まったんだ。

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