第15話 告白

 夏奈とガールズトークをしていて、夏奈のことが好きだってことに気付いてしまった。

 そう思うと急に、握ってる手とか、同じベッドに入ってることも意識してしまう。単純な話だ。


「夏奈、ちょっと思ったんやけどええかな?」

「ん、どうしたの?」

「うん。急にこんなこと言うのもあれやねんけど、私、好きになった人がタイプって言うたやん?」

「うん」

「今のタイプ、夏奈、かも」


 かも、なんて最後にちょっと日和ってしまったけど、目をそらさずに言うことができた。


「えっ? ……えっ、そ、それって」


 夏奈は私の言葉に一瞬ぽかんとしてから、薄暗いオレンジの明かりの下でもわかるくらい、かーっと真っ赤になった。

 可愛い、という感想が頭の中を埋め尽くしつつ、あ、これまあまあ脈ありでは? と理性が背中をおしてくる。


「うん。告白。まだそんな深い付き合いやないけど、今日一日一緒にいて、いいなって思ったし、一緒にいたいわ。恋人として。あかん? うちのこと、眼中にない感じ?」

「そ、そんなこと、ない、と言いますか……うん。私も、いいなって、思ってる」


 ちょっとだけ顔を寄せながら押すと、夏奈は動揺したように視線を泳がせてからはにかむように頷いた。


「そうか! あ、ごめん、おっきい声だして。嬉しくてつい」

「ううん。ふふ。そう言うまっすぐなとこ、好き」


 可愛い!!!


「あー、もう、夏奈、なんなん、可愛すぎるやんっ」

「ひゃっ。ご、強引だなぁ」


 好き、の甘えたような響きが可愛すぎてつい強引に身を寄せて頬にキスをしてしまった。夏奈は照れて空いている手を頬の近くに持って行きながら、ぬぐうでもなく所在なさげに宙を漂わせている。

 その何とも言えない戸惑った感じが、仕事の時の真面目モードと違ってプライベートの優柔不断で弱弱な感じがしてまた可愛い。


「なぁ、次は口にしてもええ?」


 手を夏奈の腰に回して強引に体を寄せ、触れ合う距離でお願いする。強引と言われたので、丁寧に申請してみた。


「わ、わわ、あ、秋葉、ぐいぐい来すぎじゃない? さっきまで全然そんな感じじゃなかったのに!」

「さっき好きって自覚したし、まあちょっとは態度変わってるかも知れへんけど。でも恋人になったんやで? しゃーないやん」

「さ、さっき? 行動力やば」


 びっくりされてしまった。まあ私だっていつも好きだなと思った瞬間に告白するわけじゃない。そこまで瞬間湯沸かし器みたいなことしない。

 でも今回は行けそうな感じだったし、そもそも片思いの状態で黙って一緒のベッドで寝るのはさすがに駄目だと思うので告白するしか手がなかったのもある。行動力を褒められているのであえてそこまで言わないけど。


「えーやんかぁ、なんも、このまま最後までしよって言うてるわけやないんやし」

「そ、そこまではさすがに心の準備ができていないからっ」

「うん。さすがにな、それは私も、もうちょい準備した方がいいって思うよ。でもキスくらいええやん。舌とかいれへんし、ちょっとちゅってするだけやし」

「……駄目」


 ベッドに寝ているので状況的には完璧だけど、さすがに付き合ってすぐ体を重ねるのは軽すぎる。まだまだ恥じらう初期状態も楽しみたい。

 でもそれはそれとして、キスくらいしたい。人生で初めてという訳でもないのだから、触れるくらいさせてくれてもいいのに。


 夏奈は真っ赤な顔で目をそらしているけど、そんな可愛い顔をされて簡単には引き下がれない。


「えー。じゃあ私の中の、この夏奈の可愛さに燃え滾る思いはどうしたらいいん?」

「もっと燃やしておいて。……明日、デートしてから、ね?」

「うーん。わかったわ」


 そこまで言われたら仕方ない。実質今もデートがはじまってる気がしないでもないが、ね? の上目遣いが可愛すぎたので要求を呑むしかない。

 明日になればキスと思えば、それはそれで楽しみだし。


「ほな、今日のところは寝よか」

「ん。……あの、告白してくれて、ありがとう。これから、よろしくね」

「告白ってお礼言うもんか? こちらこそ、受けてくれてありがとうな。私も大好きやで。末永くよろしゅうな」


 恋人になったからって、必ず長続きするわけじゃない。それは女同士だからとか関係なく、今のご時世結婚までしても三組に一組はわかれるのだから、恋人となればなおさらだ。

 でもだからこそ、私はいつだって、大好きになった人とはずっと一緒にいたいと思っている間はそれを積極的に口にするようにしている。未来がどうなるかわからないけど、今、そう思っているこの思いは嘘にはならないから。


 もう一度頬にキスをしてから腕を離して密着するのをやめる。これ以上くっついていたら、理性がぐらついてしまいそうなので。


「ん、ふふ。おやすみなさい」

「おやすみ」


 目を閉じる。それでも手は握ったまま、つないだ手が恋人になった事実を忘れさせないように、夢だったと勘違いしないように。


 今日は最高に楽しい日だった。新しい熱中できる趣味ができ、久しぶりの恋に身を焦がし、そして可愛くて仕方ない恋人ができた。これだけ楽しいことが詰め込まれた日は過去にない。

 今日は最高の日だった。だけど、明日はもっと、楽しい日になる。私はそう確認しながら、恋人の夏奈と初めての夜を迎えた。

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