第14話 夏奈の好みは

 夏奈の好みを聞いたところ嫌そうな顔をされてしまった。


「そんなに話したくないん? ほんまに嫌なら諦めるけど」


 さっきは話題をそらされたけど、てっきり自分から言うのが嫌なだけかと思っていた。なので私の方から心を開いたつもりだ。まあ、その前の晩御飯くらいから夏奈にはもう全開に心のドアが開いていると自覚してるけど。


「嫌ってわけじゃ……なくて。……勇気が、ないだけ」

「勇気」


 私のことが信用ならないと言うことではないだろう。そうだったら、そんな風に答えることすらなく、適当ににごしてしまえばいいだけだ。

 つまり本当に純粋に、大丈夫だとわかっていても口の出すのが恐いと言うことだ。なんて繊細なんだろう。よく言えば正直、悪く言えば考えなしに思ったことを口にしてきたし、周りにもそう言う人間は多かった。

 だからこそ、夏奈のその繊細さは人としての純粋さに思えた。


「そーか。ほな、待つな。心の準備ができたら教えて。今日じゃなくてもええし」

「待って。……今日を逃したら、言えないと思うから。だから、待って」

「ん、わかった」


 寝返りをうって今日のところは寝ようと思ったのだけど、どうやらすぐに言葉にならないだけど、言いたい気持ちはあるらしい。それはきっと、私を信頼してのことだ。その気持ちだけで嬉しい。

 だから私はもう一度夏奈に向いて、その言葉を待つ。


「……」


 じっと見つめると、私に向き合うように寝ている夏奈はじりじりと顔を赤くしていく。

 なんというか、会話してる時はそう気にならなかったけど、こうしてベッドに横になって照れ顔の夏奈と見つめ合っているとなんだか、ちょっと変な気になってくる。冷静に考えるとこれ、恋人みたいな距離感だし。

 だけど待つと言って向き合った以上、顔をそらすのも急かすみたいになってしまう。私は湧き上がる照れくささを我慢して夏奈と見つめ合う。


「……」

「……好き、な、タイプ、だけど」

「あ、うん」


 緊張してるのかとぎれとぎれに夏奈は話し出した。一瞬、私に対して好きと言われたのかと思ってしまった。びっくりした。変なところで間をあけたら駄目だよ、しかもこんな状況で。ときめくじゃん。

 と言いたくなったけど、茶化したみたいに思われるのもあれなので黙って頷いた。


「その、私、同性が好きなの」

「そうなんやね」


 全然わかる。男性は男性でありだけど、女性も女性しかないよさがある。さっき私から言ったのだから、夏奈がそれを言ったところで否定することも、理解できないと言うこともないのはわかりきっていたはずだ。なのに、その一言に勇気が必要だったんだ。

 今まできっと、抑圧して、隠して、我慢して、そうやって生きてきたんだろう。私は気にしないけど、気にする人だっているのも事実なのだし、それもまた一つの選択肢だろう。きっと、頑張ってきたんだろう。

 これからはせめて私の前だけでも、肩の力を抜いて話してくれたらいい。そう思いながら、そっと夏奈の手を握る。


「よう言うてくれたね。それだけ私に心開いてくれたみたいで、教えてもらえて嬉しいわ」


 実際、私だって仲良くない人と恋愛トークなんてしたくない。夏奈ほど重くないだけで、話題選び自体はそう意識してなかったけど、夏奈とならもっと仲良くなりたいって、そう言う感情が下地にあったのは間違いない。

 だから素直に、夏奈も同じように思ってくれているのがわかって嬉しい。


「あ、秋葉……うん。私も言えて、ちょっとすっきりした」

「うんうん。他には? 女性って言うのは基本やん? どういう性格とか、どういうタイプか教えてや」


 とはいえ、これだけでは同性愛者であることを教えてもらっただけだ。ガールズトークとしては全然足りない。

 なので催促すると、夏奈は照れながらもぎゅっと私の手を握り返しながら答える。


「え、えっと。こっちに来て、最初はなれなかったけど、その、関西の明るい人っていいなぁって、思ってる、かな」

「そうなんだ、いいじゃん、てか、照れてるね。可愛い」

「か、からかわないで。あとは、私、優柔不断なとこもあるけど、そう言うのも受け入れてくれるような優しい人とか?」

「自分の欠点受けいれてくれるのっていいよなー」


 まあ夏奈の優柔不断さは本人の性格もあって見ていて可愛いレベルなので、気にする人はそんなにいないと思うけれど。

 相槌をうつと、夏奈も興が乗ってきたのかさらに続けて口をひらく。


「あと、やっぱり一緒にいて楽しいとか、趣味があるのって大事だよね」

「わかるー」


 ようは明るく関西人らしいノリのよさで大らかで趣味があうタイプと。ふむふむ。


「見た目とかにこだわりあったりする?」


 前述したとおり、私は見た目にあまりこだわりがない。だからこそ見た目にこだわる人の意見はより聞いていて楽しいのだ。


「う、うん。まあ。と言っても、そんな特別なことじゃなくて、あんまり背が高すぎると圧迫感を感じるし、同じくらいの等身大のひとがいいかなってくらいかな」

「へー」


 それ、私でよくない?

 と瞬間的に頭に浮かんでから、気づいた。あ、私、夏奈のこと、そう言う対象に見てるな、って。


 実際、関西人なのは紛れもなく、どっちかと言うとポジティブなタイプだし、夏奈に関してはなんでも可愛いなって思うから寛容だし、今日一緒にいて野球観戦って言う新しく同じ趣味もできたし、それ以外にも食事だって基本馬があってて、楽しかった。中肉中背で夏奈とほぼ変わらない。

 夏奈の好みドンピシャでしょ、などと自惚れるつもりはないけど、全然ありなのでは?


 夏奈と今までもそこそこ仲は良かった。でも今日一日一緒にいて、もっと仲良くなれた実感があるし、いいなって今日、いっぱい感じた。いいなが重なって、もっと、一緒にいたいって思ってる。

 うん。夏奈のこと、好きだ。


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