第13話 秋葉の好みは

 私の好みのタイプを夏奈が調べてくれると言うことで、ちょっとわくわくしながら私は寝転がる向きを変えて夏奈を見ながら質問をまつ。

 夏奈はそれにあわせて私を向く。シングルベッドなのでちょっと近い。お風呂あがりってわけじゃないのにほんのり暖かい夏奈の体温を感じて少し照れ臭い。


「じゃあまず……基本的なところからね。男性と女性、どちらが好みですか」

「んー、あのさ、私、そう言うのって違うと思うねん」

「え?」


 会社でもLGBTがどうとか言って教育動画を見せられたりアンケートに答えさせられたりしているし、そう言った背景もあって夏奈は性別を決め打ちせずに言ったのだと思う。本当に真面目だし、なんらかのガチなアンケートをされているかのような気にさえなる真面目な導入だ。でもその質問の仕方はちょっと違うと私は思う。


「男か女か、どっちかだけしか選らばへんって決めるのって、損やと思う」

「え、えーっと、どっちもありってこと?」

「あ、そうやね。そのほうがしっくりくるわ。ありあり。ありかなしかで答えていくな」

「そ、そうなんだ」


 私の答えに夏奈はどこか考え込むように表情をかたくしながらうなずいた。おや? と思って声をかけるより先に、仕切り直したように夏奈は明るい声を出す。


「じゃあ、性別関係なく好きなタイプを探っていくね。えーっと、優しい人はありかな?」

「優しい人なしな人おる?」

「えー、不良が好きとか、ワルが好きな人って一定数いるでしょ?」

「本人にまで優しくなかったら好きにはならんやろ。あれって究極、他の人と違って自分だけ特別扱いされるってのがええんちゃう? 知らんけど」

「うーん、私はタイプじゃないから、よくわかんないや。えっと、じゃあ次。真面目は人は?」

「ありあり。と言うか、あんまプラス面ばっか言っててもおもんなくない? それこそ運動ができなさすぎて嫌いになる人はいても、運動ができすぎて嫌いになることなんてないやろ」


 運動が得意と言うのは魅力だ。格好良くて見とれる。だからこそ運動音痴過ぎて引くくらいの人もいるし、私は全然それはそれで可愛いと思うけど、それで幻滅してしまうって人もいるだろう。

 なるほど、自分で考えて納得してしまう。マイナス面で無理なところから引いていって残ったのが自分の性癖なのか。


「なるほど。じゃあ、引っ込み思案」

「あり」

「優柔不断」

「あり」

「方向音痴」

「あり」


 とテンポよく私の好みを特定していくのはいいのだけど、10個めでとまった。夏奈をみると何やらジトーっと私を見ている。


「いや、全部ありって。わざとやってる? ほんとはふざけてる?」

「ちゃうって。でもほら、結構言い換えたら長所みたいなとこあるやん? さっきの臆病って言うのも言うたら慎重なわけやし」

「……秋葉はほんと、はあ。じゃあ、見た目。髪は長いのと短いの」


 私が本気なのはわかってもらえたようで続けてもらえることになった。ちゃんと適当に答えてるんじゃなくて本当に好みですよアピールしないと。


「どっちもありやな。本人に似合ってたら」

「身長は? 高い低い」

「どっちもあり。高くて格好いいのもいいし、高くて可愛いのもあり、低いのもおんなじやな」

「胸の大きさとか?」

「それも特に気にしたことないな。どっちもありで」

「筋肉とか」

「ついてるのもええし、ちょっとくらいぷにっててもそれはそれでかわええよな」

「年上か年下か」

「うーん、どっちもありやな。頼りになる年上も、可愛い年上も、その逆もしかりやな」

「……」

「待って、思ってた以上にストライクゾーン広いことに自分でもびっくりしてるから」


 大真面目に考えて答えたのだけど、結果さっきと同じで全部ありになってしまった。いやだって、考えてみてほしい。脳内で例としてでてくる人物が自分の好みからそんな離れて出てくることないでしょ。


「なんやろ。自分でも不思議やけど、そうやって属性をひとつ出してこられても全然無理ってことないわ。うーん。過去に好きになった人とかやと、なんとなく、いいなって思って、そう言うのが重なってって感じやし、性格的に相性がいいとか、見た目じゃなくてそういうのかも」

「そう聞くとなんだかいい話みたいにも聞こえるけど、明るいタイプも物静かなタイプも好きなんだよね?」

「人の性格ってそんな簡単に二分できひんやん? 同じように明るいって言われるタイプでも、考え方も感じ方も全部違うわけやし」

「……わかるけど、それ言ったらそもそも好みのタイプっていう概念が存在しないんじゃない? オンリーワンしかないっていうか」

「そう言われたらそうなんかも」

「結局、好みのタイプなし、ってことでしょ」

「そうなるなぁ。うーん。そうやな。やからよけい、人の好みのタイプが気になるんかも」


 自分の中で好みと言うのが形作られていないから、人の好みが興味深く感じられるのかもしれない。

 結局私が夏奈の好みを知りたいのも、自分を理解したいが為に言い出したのかな? と自問自答してみたけど、いまいちピンと来ない。別にそんな深い意図はなく、なんとなーく恋愛映画みてそんな気分になって、なんとなーくガールズトークっぽいことがしたかっただけでは?

 うん。単純な話だ。


「そう。まあ、ここまで言ってそうなら、本当にそう言うことなんだろうね」

「うん。ほんま、夏奈は真面目やね。私の好みのタイプに付き合ってくれてありがとうな」

「お礼をいわれるようなことじゃないけど」

「ううん。そんなことないて」


 自分でも呆れるくらい何の進展もでなかった。でも夏奈はちょっと呆れつつも、怒ったり文句を言うこともなく、普通に結論をだしてくれた。話し合う前と変わらないと言う結論を。

 真面目に最後まで付き合ってくれて、私の好奇心にむきあってくれた。そう言うところほんとに優しいし、いいよねって思う。


「じゃあ、次は夏奈の好みのタイプな?」

「えぇ……」


 とうまく話がまとまったし、話を戻して今度こそ夏奈の番、と思ったのだけど嫌そうな顔と声をされてしまった。


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