第11話 お家訪問

「夏奈の家、お風呂とトイレ別なん? 寝室も別やし。えー、めっちゃいいけど、うちらのお給料でいけんの?」

「微妙に駅から遠いし、学校が近いとかでもないからね」

「あー、言われたら確かに? 15分以上歩いたな。毎日やとつらない?」

「残業した時はちょっとね。でも住宅街だし治安もいいしね」

「へー、えぇなぁ」


 はじめての夏奈の家は思ったより広かった。駅から近くてとにかく交通の便を意識している私の部屋はワンルームでお風呂とトイレも一緒だ。でも15分。朝の15分は貴重だ。

 起きられるけど、布団からなかなか出る気にならなくてついついぎりぎりになってしまう。実家にいた時は親が声をかけてくれるからその時間に起きるって決まっていたけど、一人だとほんと、限界までだらけちゃうんだよね。

 このくらいの距離でも住んじゃえばこの時間に合わせてのギリギリになるかもしれないけど、まあ、すぐに引っ越すわけでもないし真面目に考えることないか。


 夏奈の部屋に興味をひかれつつも、今日のメインは家飲みだ。二人で楽しもうじゃないか!


 夏奈と話しながらあれこれ買ってきたもので食卓を彩っていく。グラスもちゃんとお揃いのやつがでてきて、ちゃんとしてるんだなーと改めて思い知らされる。

 私の家だって来客用のコップ自体はあるけど、どれもばらばらだ。最初から駅から多少離れてもいい部屋に住むことといい、なんというか、ちゃんとしている。元々真面目なタイプなのはわかっていたけど、


「ほな、かんぱーい」

「かんぱーい」


 感心しつつ、ついに飲み会が始まった。ここまでですっかり酔いはさめ、お腹も減ってきている。


 まずはレモンチューハイの元を炭酸で割るタイプのセルフチューハイだ。このタイプのいいところは自分で好きな濃さにできることだ。夏奈のは薄めに、私のは普通に入れている。

 私がおすすめしたので、普通によく飲んでいるやつだけど、氷たっぷり入れてきんきんに冷やしたのでもう、シンプルに美味しい。


「はぁー」

「ん、これ美味しいね。薄くしたけどレモンの風味はしっかりあるし」

「でしょ、これほんまおすすめ」


 と軽く感想を口にしてからお箸を手に取る。まずは定番のポテサラ。私一人だった絶対そのまま食べちゃうやつだけど、夏奈は当然のように器にうつしている。自分の取り皿にとって一口。

 うん! いいねー。この玉ねぎの長い感とジャガイモのごろごろ感。美味しい。ポテサラ大好き。


「ポテサラは美味しいよね。自分ではちょっと面倒でたまにしか作らないけど」

「えー、ポテサラ自分でつくるんすごいわ」

「あれ? 自炊するんだよね?」


 会話の流れで二人とも自炊することは知っていたからか、夏奈は不思議そうに首を傾げている。自炊をする、と言うのは同じでも、どうやらそのレベルには差があったらしい。


「するけど、副菜やん? それだけで食事にならへん副菜はなかなか手がでぇへんわ」

「そうなんだ。昨日は何つくったの?」

「昨日はつくっといた角煮で角煮丼やな」


 特に今はまだ夜は寒いので、煮込み料理を大量につくり数日かけて食べるのがルーティンだ。角煮は火曜日に仕込んで水木金と三日で計算通り食べきった。


「角煮とかつくってるの? 一人暮らしでそれはすごくない?」

「それだけ食べたり、角煮丼にしたりしたらなくなるわ。元々同じメニュー続いても割と平気やし。」

「それは私も平気だけど、そっか、その発想なかったなー。私も今度つくろ」


 こんな話をしていると、何だかがっつりしたものも食べたくなってきた。クラッカーに生ハムをのせて食べ、一杯目のチューハイを流し込んだところで私は立ち上がる。


「唐揚げ、そろそろあっためてもいい?」

「いいよー。私も食べるから全部あっためちゃって」

「りょーかい」


 たくさん買ってしまっているので全部食べられるか分からない、ということで温める必要があるものは台所においてある。お皿にうつしてラップもしているのでそのまま全部チン、と。


「マヨネーズほしいんやけど、だしてええ?」

「ん、いいよー。冷蔵庫あけたらドアにあるから」

「はーい」


 お言葉に甘えて冷蔵庫をあける。さっき一緒にいる時に夏奈が開けていたので中はちらっと見ていたけど、調味料がたくさん入っている。と言うか、私普通にマヨネーズとか常温においてるんだけどまずかったのかな。後で調べよ。

 戻って座る。さっそく唐揚げ、の前に次のお酒を。唐揚げだし、もっかいレモンにしておこう。

 氷がさっきので半分以上溶けたのでさっきほどキンキンではないけど、むしろちょうどいい。口をさわやかにしてから唐揚げを食べる。


「んー、唐揚げ美味しい」

「チンでも十分美味しいよね」

「わかる。唐揚げって家でも十分美味しいけど、こういうちょっと味付けたデパートのもまたいいよね」


 甘辛いタレがからんでいてとても美味しい。揚げ物食べたし、と言っていた夏奈も唐揚げの魅力に勝てないようで食べている。禁断のマヨネーズも追加して、あー、これはいかん。


「んふふ。今日、ちょっとカロリーとりすぎかもね」

「今日くらい大丈夫やって。ていうか、今日はいっぱい集中して観戦したから脳みそでカロリーつかってるんちゃう?」

「そうかな? まあ、いいか。あ、ポテサラなくなっちゃうけど食べてもいい?」

「どーぞどーぞ」


 あれこれまだまだ買っているけど、話ながら食べていると結構お腹は膨れてきた。後は明日の朝ごはんにするとして、確か食パンはあるからーって夏奈は言ってたから大丈夫だよね。


「ふー、お腹いっぱい。ごちそうさま」

「ごちそうさま。んー、9時過ぎかぁ。どうする?」

「え? なにが?」

「えっと、まだ帰ろうと思ったら帰れる時間だけど」

「えー、泊めてくれるんやろ? 私サブスクはいってるから、あとで映画とかみぃひん?」

「あ、そうなんだ。いいね」


 完全に泊まる気だったので、今更帰れるとか言われても困る。と言うことで今夜は寝かせないぞ!

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