第8話 試合終了
五回が終わるとグランドの整備が行われる。そこで一度ゴミを捨てたりトイレに行ったり、軽くストレッチしたりして緊張をとく。
0点で終わった五回。試合は後半戦だ。一点差。まだまだ逆転可能性は十分にある。ある! あるんだ!
と思っている内に8回裏が終わった。あれから点数は微動だにせず。もちろん惜しいところはあった。ヒットはもちろん、ワンアウト1、3塁もあった。ここでホームランすれば逆転じゃん! となってた。はい。なりません、と。
「ま、まだ一回あるよね」
「そやね!」
と元気よく返事しつつ、いやまぁ、ねーだろ。と心の中のすさんだ私が同時に返事をしていた。真の阪神ファンは最後まで信じるのかもしれないけど、私はしょせんにわかななんちゃってなのですぐに予防線と言うか諦めてしまうのだ。
さっき買った粒粒触感が楽しいアイスを食べてしまいながら青山さんには笑顔で誤魔化しておいた。ちなみに青山さんも食べたことないってことでおすそ分けしたけど、もっとあげたらよかった。マイナス40度と言ううたい文句のアイスは舌にくっつくから一口目は感動! 美味しい! って思ったけど、バクバク食べるとちょっと舌が痛い。
「あれ? もう帰る人いるみたい」
「あー、まあ終わってからやと混むやろうしな。それにさっきアナウンスあったけど、帰りも制限かかってこの辺は待たなあかんみたいやしな」
私たちはゆっくりできるよう明日休みだしいいけど、子供連れだったりして人込みを避けて早めに帰りたい人もいるだろう。試合は絶対全部見ないといけないわけじゃない。それこそ三回終わってから来た人もいたしね。
遅れてきたから私と同じようなにわかかな? と一瞬思ったけど鞄から阪神の制服もバットも取り出すしリズムも完璧だったのですぐに、あ、遅れてでも来たいってことでガチ勢かってなった。
なんというか、全体的に一体感があって阪神ファンが沢山いるけど、ガチ勢しかいなくて肩身がせまい、なんてこともなくてむしろあったかい居心地のいい感じだ。
全力で応援している人もたくさんいて目にも楽しいし、聞いても楽しいし、マナーが悪い人もいなかったし、いやーほんと、楽しかったなぁ。と思っているうちに九回も終わった。はい、試合終了ですね。
「うわー、終わっちゃったね」
「そやね。いやー、疲れたなぁ」
「そうだね。でもほら、結構白熱した、いい試合だったよね? 悪く無かったよね?」
「え? う、うん。そうやな。楽しかったな」
「だ、だよね。よかった」
「え? どしたん? 急に」
強めに念を押すように言われて戸惑いながら頷くと、何故か青山さんはほっとしたように胸をなでおろしたので首を傾げる。すると青山さんはちょっと照れ笑いするように頬をかいた。
「いや、阪神負けちゃったから、落ち込むかと思って」
「もー、青山さん、そんなことあるわけないやん。一回阪神が負けただけでいちいち落ち込んでたら阪神の応援なんかできるわけないやん」
そもそも阪神に限らず、最多優勝数を誇る巨人だって試合一つ一つを見れば負けることが珍しいことじゃないのだ。それこそ阪神が巨人に勝つことだって普通にある。ただトータルで負け続けているだけで。
試合数が多いのに一回負けたから落ち込むのはナイーブすぎるだろう。もちろんそう言う人がいるとして否定しないし、それはそれで全力で応援しているんだなと思うけど。
個人的には阪神を応援する時には、序盤でちょっとでも勝っているならその時点でもう勝った勢いで喜んでおいて、負けてもまあすでに勝った分喜んでたしいいか、と思うくらいにしておいて、逆転されたらまだまだと言いつつまあ阪神だしね、と心の準備をしておいたほうが精神衛生上いいと思ってる。
まあこんな考えだからにわかなのかもしれないけど。だからこそ優勝したら嬉しいのだ。と言うかいつから優勝してないんだっけ。もう……15? 16? 子供の時だったからちょっと記憶があいまいだ。
「そっかー、よかった。私としては初めての球場観戦すごく楽しかったけど、私から誘ったから、折角なら勝ってほしかったけど」
「まぁなぁ、私も初めての観戦やし勝ってくれたら嬉しかったけど、まあしゃーないやん。それに、負けても面白かったし」
「! だよね、私もちゃんと野球を見たの初めてだったけど、すごく白熱したと言うか、楽しかった」
「やんなー、私もここまでがっつり真剣に最初から最後まで集中したんは初めてやねん。途中でだれたりするかなって思てたけど、全然そんなことなかったわ」
最後00が続いた時も、何だかんだ次こそ、追加得点を許すな! と熱くなった。テレビを見ている時はご飯を食べたりながらで、はいはい。って感じで途中で見るのをやめてお風呂に行ったり普通にしていた。
でもこうして球場に来るとエネルギーと言うか、そう言う熱中する何かがある。最後まで真剣に野球を見れた。自分でも意外なほど楽しかった。
野球に限らずスポーツ観戦自体嫌いじゃないけど、割と飽き性なのでどうしても試合が長いと集中力が続かないタイプだった。だから球場に来るのに二の足を踏んでいたのだけど、こんなに熱中できるならもっと早く来ればよかった。
「ね。よかった。私、今回のでちゃんと阪神のファンになっちゃったかも」
「おー、さすが青山さん、見る目があるなぁ!」
にわかの私だけど、そう言ってもらえるととても嬉しい。やっぱ関西人はなんだかんだ阪神愛が染みついてるんだよね。
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