第6話 初得点は!?

「おー!」


 裏にうつり、相手のキャッチミスで無事二塁に進んだ場面、地面を水切りして進むようにした弾丸が外野に抜けた。


「まわれまわれっ」


 空気に押されるようにして私も声に出して応援していた。無事一人目がホームインし、打った本人も二塁まですすんだ。大躍進だ。一点を返しただけでなく、逆転のチャンスだ。


「いまのよかったねぇ」

「うんうん。いやー、すごかった。これは逆転あるよ」


 喜びながら手に汗握った反動でお茶を飲んでいると、球場がうなるようにして音楽が流れている。ん? とわからなかったのは一瞬。すぐにそれが六甲おろしだとわかった。

 点を取るたびに六甲おろしが流れるのか。相手チームはなかったので、完全にホームだからなのか。青山さんに聞かれたら恥ずかしいので鼻歌で乗る程度にするけれど、とっても気分がいい。ちょっと相手チームが心配になるくらい球場の雰囲気は阪神一色だ。


「次の選手は、お」


 糸山、私も名前を知ってる選手だ。と言うことはそこそこベテランでいい選手に違いない。いいぞいいぞ、かっとばせー、いーとーやまー!


「あっ」


 打ち上げて、フライ! めっちゃ凡! 普通にキャッチ!

 うーん。残念。


「あー、残念だけど、でもまだワンアウト、まだまだだよね」

「そうそう。いけるで!」


 と青山さんと二人で励ましあいながら次のバッターを見守る。あ! うったー!


 ちょっと気落ちしたのもわずかなことで、なんとそれからうまく試合がすすみ、なんと本当に逆転してしまった。その次にあっさりとアウトになったけれど、2対1での逆転劇は熱かった。

 ここは今のうちに一気に喜んでおかないと! 私は残りのお茶を飲み干して、チューハイの人を呼ぶ。どうやら氷に味が付いていて溶けてもうすくならないらしい。ピンクで可愛かったのでそれにした。


「あ、青山さんは大丈夫?」

「うーん、嫌いじゃないけど、あんまり強くないからなぁ。結構量あるし」

「ほな、私の一口ずつ飲む?」

「あ、あー、そ、そうさせてもらおうかな」


 全然構わない。青山さんはちょっと遠慮がちだけど、ここはきちんと伝えておこう。


「青山さん、お酒をあんまり飲まへんのは全然大丈夫やで。気ぃ使って無理に飲まれた方が困るし、それにな。実は酒飲みって、あんま飲まへん人との方が相性がええねんで」


 私はチューハイに口をつけて相手の攻撃を見ながら、青山さんにそう伝える。ちらっとみると、青山さんも私をちらっと見て、そうなの? と小首をかしげている。


 お酒を飲まないのはノリがよくないとか、そう言う風に言う古い人がいるのは知っているけど、私はそうは思わない。飲みすぎて帰れなくなるような人は論外として、ほどほどに同じくらい飲む人と過ごすのも楽しい。でもそれはそれとして、全然飲まない相手と一緒というのも安心して酔えるので楽しかったりするのだ。

 以前の話だけど、私の姉は結構な酒飲みだったので、結婚相手のお兄さんが全くお酒を飲めない人と聞いて最初はびっくりした。だけど車で出かけた時も相手を気にすることなく自分がお酒を飲めると聞いてめちゃくちゃ納得した。

 それから私もそれなりに飲むようになってその気持ちがわかったので、飲まない人には無理をしないでいいとどんどん広めたい。私が気持ちよく飲めるので。


「そりゃあ、私が一人で飲んで相手が気ぃ悪くしたらって多少は気ぃつかうけど。でも青山さんが私が飲んでも気にしぃひんねんやったら、私も気にならへんし、飲まへんことを変に負い目に感じることはないねんで」

「そうなんだ? じゃあ、よかった。味は嫌いじゃないけど、あんまり量が飲めないから、よく飲み会とかだと一杯目が飲み終わらなくて、全然飲んでないとかよく言われたりするから」

「あー、そう言う人いるよなぁ。あかん酔っぱらいの見本や。むしろ私は飲まへん青山さんがいてくれたら頼もしいわ。あ、やからってもちろん飲みたかったらのんでもええし、私が酔っ払って迷惑かけようってことやないからな? もし飲みすぎとか、調子に乗りすぎって思ったらいつでもいうてな?」

「ふふ、ん、わかった。じゃあ、一口ちょうだい?」


 青山さんにチューハイを渡すと、一口のんだ青山さんは楽しそうに笑った。お酒を飲まなくてももちろんいい。お酒を嫌いで匂いもかぎたくない、となるとさすがにあれだけど、見ている感じ、青山さんくらいの楽しみ方はむしろお上品でいいと思う。


 お互いの意思疎通もできたところ、あっさり表がおわった。逆転されるかと思ったけど、まだ勝ったままだ。嬉しい。もう一回勝った気分でいられる!


 私はほろ酔い気分で青山さんの肩に手をかけ、勢いでぶつからないよう気を付けながら阪神の攻撃回に一喜一憂した。点差は広がることなく、三回が終わった。

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