第5話 試合開始

 第一球が始まる前にカレーを食べ終わり、さて、と姿勢を正して試合鑑賞に意識を切り替える。

 一回表、相手、二本ハムからの攻撃だ。まずは無難にしのぎ切った。


 今日の試合はオープン戦。毎年していることは知っていたけど、今回見るにあたって調べたところ、くらいの感覚だったけど、開幕前の非公式な試合と言うことで選手のパフォーマンスやコンディションのチェックの意味合いが合ったらしい。

 挑戦的な試合が見れるのだろうか。個人的には高校球児たちの試合のような点取り合戦が好きなので、そう言う感じなら嬉しい。折角青山さんと見るのだから、盛り上がる試合内容だといいけど。


「お、おー」


 普段テレビで見ているより遠いけれど、横からだからか意外と球の動きや全体の流れが見やすい。意外と冗長には感じられず、一球一球に一喜一憂して見入ってしまう。

 それは多少アルコールが入っているからもあるかもだけど、球場全体の雰囲気は大きいだろう。沢山の阪神の服をきた人がいて、頭からタオルをかぶったりとパッと見の雰囲気もテレビで見たままでみんなばっとみたいなやつを持っている。


 阪神の攻撃の時はそれぞれの選手の応援コールがはいるのだが、なんと掲示板に字幕がでている。なんて丁寧なんだろう。私たちの近くからもばんばんと合いの手がいれられて、全体の熱気でふるえるほどだ。その熱気にあてられ、私もついつい熱中してしまう。


「おおっ!」


 打ったか!? と思ったら打ち上げ過ぎだ。


「あぁー……」


 まだキャッチされる前からついでてしまう声と同時に、球場中から同じ反応がでている。その一体感に、ますます私は一球も見逃さないぞ、と言うように前のめりになった。

 残念ながら阪神の攻撃も終わってしまい、一回はお互い0。また相手の回だ。もちろん気を抜けないけど、攻撃よりはちょっと気持ちがおちついたのでお茶を一口。


「ねぇ、山田さん。指名打者って何か知ってる?」


 周りのざわめきがあるので、青木さんは体ごと近づいてきてそう尋ねてきた。青木さんはあんまり野球に興味がなかったみたいなので、私の方が詳しいと思っているのだろう。でもね、私が野球のルールを学んだのは高校生が主役の野球漫画。指名打者とはとんと聞き覚えが無いのだ。

 と言うわけでささっと検索する。ふむふむ。


「ピッチャーの人の代わりに打席に立つ、攻撃専門の人やって。公式に認められてる役みたいやね」

「なるほど。ピッチャーの人は肩を大事にするから、特別に分業制があるみたいな感じなんだね」

「多分そうやろなぁ、知らんけど」


 球場の熱気に負けず大声で話している人もいるけど、あんまり素人丸出しの会話を大声でするのは気恥ずかしい。顔を寄せて返事をした。


「おあっ」


 と思っていると相手がいい当たりをした。初ヒットはこれで相手にとられてしまったし、二塁にまでは知られてしまった。ワンアウトでこれは危ないのでは?

 その次の打者はわかりやすいバンドのポーズになった。漫画では見たことあるけど、これがバンドのポーズ。すごいわかりやすい。敵チームだけどこれは面白いぞ。


「あー、綺麗にバンドしたねぇ」

「うーん」


 これでツーアウト3塁。ますます危ないのでは? と思っているとあっさりと点がとられてしまった。反対側から音楽がなり、そちらをみると白い服の集団がいて、いまさらその辺りが敵チーム側なのだと気づいた。


 二本ハムの応援団か。何と言うか、当たり前だけどここは阪神甲子園球場。阪神のホームでありほとんど阪神ファンばかりだけど、当然敵チームの応援している人もいるのだ。

 そこそこ席が空いているのはオープン戦だからだろうと思っていたしそれも間違ってないんだろけど、向こうの奥部分がやけに空いているのはそう言う事情もあったのだろう。

 そう言えば、と思って二本ハムで検索すると、北海道の球団だった。名前は知っているし阪神と巨人、広島カープ以外どこの地域の球団かあまり知らなかった。さすがに北海道からオープン戦の応援で来る人はそりゃあ多くないだろう。


 先制点をとられてしまったが、逆にこのアウェイな環境ですごいな、と感心する気持ちもある。何とか一点で攻撃に移ったので、むしろ良しとしよう。

 私はにわかだけど、野球は最後までどうなるか分からないスポーツであることくらいは心得ているのだ。


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