第3話 何にしようか球場グルメ

「何食べたい?」


 中に入って販売店のエリアに向かいながら青山さんに話をふる。


「んー。カレーとか美味しそうかも?」

「わかるー。名物ってあるもんな」


 さっきから甲子園カレーがでかでかと広告と共にお店が何回も出てきたので気になっていた。とは言え、最初から決め打ちすることもない。余裕を持ってきたのでまだまだ試合開始まで一時間以上ある。二人でぶらっと見て回ることにした。


「この辺お店閉じてるね」

「ほんまやな。やっぱりオープン戦でまだはじまってへんしお客さんも少ないからってことなんかな?」


 通路に戻るとすぐに飲食店スペースがあるのだけど、三階のエリアはほぼ閉まっているようで紙が一枚貼ってあるだけだ。残念に思ったけど、全くないのはチェーン店のようで、お目当てにしていたメニューはちゃんと二階の真ん中のエリアにあったのでほっとする。


「うわぁ、焼き鳥めっちゃいいにおい。やっぱ焼き鳥ほしいなぁ」

「いいね。私はカレーか、焼きそばか」

「私はカレーにするわ」

「うーん、そうだね、私もカレーにしよ}

「え、あわせんでもいいけど」

「横でカレー食べられたら、カレー絶対食べたいでしょ」

「それは確かに」


 カレーはさすがに、じゃあ一つのスプーンで分け合おっかと言うには青山さんとの関係ではちょっとハードルが高い。お箸でつまめるものなら気にならないんだけどね。

 と言う訳で一通り見て回ってメニューを決めたところで、私たちはそれぞれが二人前のメニューを買って合流することを約束して別れた。私は焼き鳥だ。

 特にメニューを決めていないけど、アルコールとのセットが安いのか。うーん、魅力的だ。でも青山さんが飲むのか聞くのを忘れてしまった。一応ここに来る前にそれぞれペットボトルを一本買っているし、カレーがあるのに三本は多い。

 と言うことで普通に鳥とあと復活! と書かれていて気になったので豚のと二本ずつ買った。ちょっと大きいけどまあ食べれるでしょ。


 注文してから焼いてくれるようでそこそこ待たされたけど、それに見合うだけの美味しそうな焼き鳥だ。それにジャンボの名に恥じない大きさ。

 一本五百円、四本買うと二千円越え。正直お高めだけど、これも覚悟の上だ。お祭り代金なのだ。今日は財布のひもを緩める覚悟をしてきた。


 焼き鳥は大きな紙コップに入れて渡された。先に買って渡されているお客さんを見て、何でコップが二重なんだろうと思っていたら、最初に一個のコップで豪快に串が入れられた際にコップにタレがつきまくっているので二重にしているらしい。はー。なるほど。


「ただいまー」

「……おかえり、焼き鳥、結構時間かかったんだね」

「注文うけてから焼いてるっぽい? 知らんけど」


 席に戻るとすでにカレーを買った青山さんがいた。まあカレー程提供時間が短い料理も少ないだろうしね。

 お金は後でまとめて折半すると言うことでとりあえずそのまま席に着く。座って


 まだまだ始まるまで時間がかかりそうだ。席に着くと思ったより座り心地も悪くない。見た目は背もたれもないシンプルで緑色の椅子で、固くて平面ですぐにお尻がいたくなるようなものかと思っていたので意外だ。

 後頭部から日が差している分、視界は良好だ。少し暑いくらいだけど、風もあるからか体感気温はちょうどいいくらいだ。


 席は横幅はつめれば二人座れそうなくらいにはある。大柄な男性が足をひろげて座れるくらいだろうか。荷物も置けるので助かる。

 なので横幅は問題ないけれど、前後が少し狭い。人が座っている前を通りのはかなり難しそうだ。幸い前に人がいないのでまたいで前の列に行けば真ん中の人も自由に移動できるだろう。あまり気にせず席を使えそうで助かる。でも後ろは人がいるので、あまり後ろに体重をかけないようにしないと。


 いくつかひどく汚れている席があるのは誰かが前の席を足置きにしていた証だろう。正直に言うとちょうど自分もそうして座りたいくらいの絶妙な高さだ。足首があたるくらいの位置で、乗せたら膝が90度になって机にするのによさそうだ。

 しかし仮に毎回綺麗にされるとしても、遅れて前の席をつかう人が現れないとも限らない。空いてる席に荷物を置くくらいならともかく、足はさすがにないだろう。前方のおじさんが思いっきり足を乗せているのが見えるけど。


 見晴らしもいい。まだ試合は始まっていなくて、マスコットが踊っている。彼らに手をふっている観客も多くいて、すでに会場のボルテージは高いようだ。


「食べよっか」

「うん。いただきまーす」

「いただきます」


 それを見ながら、冷めないうちにと青山さんとアイコンタクトをしてからマスクをとって早速私は焼き鳥をほおばる。


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