第十五話・頼る、甘える、そして?
週に二回、数時間。私は、接客以外の裏方の仕事をしていた。
問題なく働けているのは、こずえさんのおかげだと思う。失敗を過剰に恐がる、男性が至近距離に居ると身体が震える事がある……など、そういうのを事前に察知してくれているのがわかるから。
「苦手なものって、誰にでもあるでしょ。時間かけたら平気になることってあると思う。傷が癒えてないうちは、わかる人に甘えたら良いのよ。実穂さんは頼るのが苦手みたいだけど、私は甘やかすのが得意だから、ちょうどいいじゃない?」
落ち込んでる時にそう言われて、私は何か分からないけど、おかしくなって、笑ってしまっていた。
「甘やかすのが得意って、初めて聞いた」
「私も初めて言ったかも。でも考えてみれば、甘やかし一号は、谷くんだったなあ。実穂さんは、二号だね」
少しだけ遠い目をしたこずえさんが、本人には言わないでねと誤魔化すように笑った。
谷くんの名前が出て、私はどきっとした。日常会話のようなメールのやり取りをしてる事、こずえさんには話してなかった。栞里には、近況報告で伝えていたけど……。
「そういえば、谷くん。実穂さんの事、すごく気にしてる口ぶりで」
「え?」
「昨日、仕事帰りにうちに来たのよ。気にするくらいなら、連絡してみればいいのにって言ったらさ。日記みたいなメールのやり取りならしてるって、ねえ、実穂さん? いつの間に」
こずえさんが、嬉しいなあと呟きながら微笑む。
「よかった。怖くない男の人が居るみたいで」
このやり取り以降、こずえさんとは谷くんの話をしていない。谷くんが甘やかし一号というのは気になるけど、それは本人から聞くべき内容なんだろうと、感じた。
思い返せば、谷くんに対して初対面以降、怖いとは感じた事がない。かといって、それが特別というのかといえば、違うような気がする。
友達というより、後輩? それも違う。弟みたいな? 弟が居たら、多分こんな感じなのかも。きっとそうだ。
そんなふうだったのが、これは恋なのかもしれない、と、変化するとは、思ってもいなかった。私は、恋愛に蓋をしたつもりでいたのだから。
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