第十四話・岐路がみえた
仕事を探し始めたことを、こずえさんに話してみると、「うちで働いてみる?」と言われた。それが、あっさりとした口調で、私は「え、まさか、そんな」と、うろたえてしまう。
「谷くんが大学卒業するでしょ? 三月中旬くらいには辞めちゃうんだよね。四月になったら、専門学校や大学の新入生のバイト、一人雇うのよ。実穂さんはちょっとしたお手伝い、んー、週二回の数時間くらいかな。体調とかいろいろ無理ないようにさ。身体が慣れたら、時間増やしたり」
あーでもないこーでもないと、意見を聞かせてくれる。私のいろいろな事情を知ってるからこそ、申し訳ない気がした。人手が足りない時に、不慣れな私が働いていいんだろうか。
「接客が不安なら、接客以外の仕事もあるからね」
以前、働いていたリサイクルショップのように融通きくところは、探してもみつからないだろうとは思っている。パニック発作が出る不安があるから、接客のない仕事じゃないと……。それだったら、こずえさんが良いのなら、こっとんで働くのは良いかもしれない。
「即答しなくても、ゆっくり考えてね」と話していると、谷くんが、「お疲れ様でーす」とスタッフルームから現れた。
「聞こえてしまったんだけど、新原さん、こっとんで働くんですか? もしかして、俺が辞めたあと?」
谷くんは、私の深い事情を知らない。春哉との話を、ざっくりと知っているくらい。でも、何かしら訳ありなのを勘づいているような気がする。
「四月から、新原さんとの壁? みたいなのがなくなるかと思うと、なんか嬉しいですね」
「え? 壁?」
私が、首を傾げていると、
「年齢はそんなに離れてない、ですよね。学生だとなんかまだまだガキみたいじゃないですか」
と、真顔で返答してきた。
「今日の谷くん、ぐいぐい行くね。社会人まであと少しだからかなぁ?」
こずえさんが、ふふふっと意味深に笑う。
「入れ違いになるかもしれないけど、バイト仲間? 友達? として連絡先、聞いてもいいですか、というか教えてください」
顔見知りよりは友達に近いくらいには、気さくに話していたつもりだったけど、改めてこう言われたら、なんだか照れくさい。
「えーと、私、まだガラケーだから、メールになるけど」
お互いの連絡先を交換し、私と谷くんは、その日からメールのやり取りをするようになった。
それから、私は『かふぇこっとん』で少しだけ働くようになり、春を迎える。
✳ ✳ ✳
雨樋から溢れる雨水が、当時の気持ちを思い起こさせる。
私が、多分、壊れかけの雨樋だった。そして、私は壊れかけているのを知らず、ぶつけてくる想いを、必死で受け止めていて、冷静さを欠いていたんだった。
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