第七話・振り返る(其の四)
親友──
仕事を辞めたあと、外出が減ったまま、年が明けた。一月二日に、栞里から年賀状が届いた。久しぶりに会いたいねと書かれているのを見て、春哉に相談したんだった。
あの時、栞里と会う許可が出なければ、今、私はここに居ない。
許可を取ろうと相談した私は、ひどく震えたのが、今となっては笑える。失笑とはこういう感じなんだろう。
喉の乾きを感じて、布団から出る。台所へ行き、冷蔵庫のミネラルウォーターを取り出した。コップに注ぎ、一気に飲み干す。
その時、外は酷い雨で真夜中だというのに、男の怒鳴り声が聞こえた。女が泣きながら謝っているようだった。それは、私の過去の記憶の幻聴なのか、現実なのか……。考えていると、私の手が全く震えていない事に気が付いた。という事は、現実なんだ。だとしても、私が完全に乗り越えたのかは、まだわからない。
外の二人に明るい未来があれば良い、助けなきゃ、と思った。私は携帯を探して、通報する事にした。外に出る勇気は、まだないということに、はっとした。
まだ、朝まで遠いということ。
私は通報してから布団に戻った。
✳ ✳ ✳
「病院で、治療をしてもらった事はないの?」
「一度だけあります。歯がぐらついて、痛みが酷い時に歯医者に行きました。医者には、ぶつけたと嘘ついてしまって」
「そう……。診断書とれるかと思ったけど、それは難しいみたいね。不眠症で、心療内科は? 診てもらわなかった?」
「行けませんでした。機嫌をそこねたくなかったから」
心療内科を調べたことはあった。
でも、それがバレてしまって、罵倒されたんだった。心身の不調をどうにも出来なくて、誰かに助けを求めたくなっていた頃、栞里からの年賀状が届いたような覚えがある。
「年が明けて、親友を家に呼ぶ機会がありました。栞里──親友の名前なんです。栞里だけは、春哉も許してくれました。そのおかげで、心療内科もこっそり、通院できるようになりましたね。栞里がうまく連れ出してくれました」
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