第八話・振り返る(其の五)
一息つきたくなった私は、湯呑に手を伸ばした。それを見てなのか偶然なのか、鈴木さんも湯呑を手にした。
温くなったお茶を半分だけ飲んだ。
「冷たいお茶と熱いお茶、飲めなくなったんです。コンビニ行っても、常温のお茶かお水しか買いません。殴られた後、口の中が痛くて温い飲み物しか受け付けなくなっていました。それからの癖みたいです」
「うん。そういう癖は、根づいちゃうわね。でも、忘れてしまってる自分に、突然出会ってしまって驚いちゃうものよ」
「そういう話、聞いたんですか?」
「そうね。今までの利用者さんで、居たわね」
「そうなんですね。なんだか、希望がある話で、嬉しいです」
そして私は残りのお茶を飲み干した。
「話、続けますね」
私は、どこまで話したかを確認するため、鈴木さんの書いた時系列を眺めた。まだ、先が長い。
「眠るのが怖かったので、睡眠導入剤は飲んでませんでした。軽い安定剤だけ、お守りのように飲むようにしていて。栞里から週に数回でも飲むように言われていたんですが、春哉が居る夜に、熟睡するの怖かったんです。春哉の機嫌が悪い時、薬を見ると、『コレは、俺に対する当てつけか?』と怒鳴りました。殴られなかったんですが、何故か、三時間くらい正座を強要されました。栞里が家に来る事が増えたからか、手を出すのを控えていたような気がします。その年の梅雨くらいまでは、そんな感じでした」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます