おまけep150 恋は嗅覚で見つけて全力で挑むものよ!な笑子

 銭湯の更衣室で知り合った徳永笑子と、木綿豆腐冷やヤッコ(本名、鈴木八重子)は近くの居酒屋にいた。


「ヤッコ様、こんな居酒屋ですみません。もしも次回を恵んでくださるなら、その時はちゃんとレストランを予約して、、」


「いえ、、二人共、銭湯帰りですから…。すっぴんですし。。」


 完全に崇拝モードの笑子にやや引き気味な八重子。すでにお腹いっぱいご飯を食べてきたばかりである。


「すみません、今日はもうお腹いっぱいでビールは飲めません。カルピスサワーを頼んでも?」


「え!?や、ヤッコ様がカルピスサワーを!?ギャップ!!!!萌えが止まらないっ!!」


 いちいち騒がないでくれ…と八重子はさらに引いていた。元々、マイナス思考のコミュ障である。しかし、笑子の自称コミュニケーションモンスターは本当だった。数十分後にはすっかり打ち解けていた。


「なるほどっ!ヤッコ様の漫画に出てくるタエがつくキャラクターは高校時代の好きな人がモデルだったのですね!?しかも、今日手料理を食べてきたと、、」


「ええ。ですから今日ほど幸せな日はなかったのです。そして、あの人を愛するまま、新しい恋に目を向けようと思えた日でもあります。」


「そんなにお綺麗な人なのですね、妙さん。そしてその伴侶であるみちるさんも・・・。」


「ええ。あの人なら、妙さんが好きになるのもわかるんです。私ではないのだなと。今まで卑屈だった私ですが、素直に認められる人なんです。」


「なんてこと、、こんなに素晴らしいヤッコ様が、、卑屈だったなんてっ!こんなに才能に満ちあふれているのに。。」


「ありがとうございます、、そんなに褒められることがないので、その辺でもう勘弁してください。明日蕁麻疹が出そうです・・・。あ、かゆい。」


「しかし、、純愛だったのですね。ヤッコ様。高校からずっとその人を・・・。素敵。」


「はい。高一からずっと片思いでしたから、8年ですか、、。」


「へ?」

「なにか?」

「8年?」

「はい。」


 指を折り数える笑子。


「ゑ?」

「はい?」

「ヤッコ様、、一体おいくつで?」

「23歳です。」

「!!!!!????」


 やべぇ。6つも下だった。と笑子は固まった。そう、笑子はみちると同い年だったのだ。


「ふ、ふぅん。ソウナンデスネー。」

「え。あ、ちなみに笑子さんはおいくつで?」*コミュニケーションを頑張ろうとしている八重子。

「あ、えっと。レモンサワーとししゃもを頼もうっと!」

「どうぞ。それでおいくつなんですか?」*悪気はない。

「・・・言わないといけませんか?」

「え?ちょっとやっぱり会話が難しいですね。」

「あ、ごめんなさいっ!そんなつもりでは!に、29歳なんです!!ダメですか?!」

「あ、そうですか。え、なにがダメなんです?」

「あ、いえ。何でもないです。・・・ん?」


(なんで私はダメなのかと聞いたのだろう。はて?)*笑子の自問。


 そんなこんなで二人の話は尽きることなく、2時間後。


「では、笑子さんが恋していた会社の女性が、すでに恋人がいたと、、」

「そうなんです。ヤッコ様のように、目が冷たくて素敵な人で。だけど恋人がいるとわかって。」

「え、私と似てる?藪睨みですか?」

「藪睨みというか、、ヤッコ様の目は素敵です。薄塩ポテトチップスのようなそのお顔にふさわしい。ずっと見つめられたらどうにかなってしまいそうな、、」

「は、はぁ。。そういう見方もあるのですね。ポテトチップス??」

「ヤッコ様!仕事の一環でもありますし、どうか一度、メイク動画の撮影をそばで見させてくださいませ!お手伝いなら何でも致します!!」

「え、それは・・・」


 八重子は躊躇った。家に人が来たことなど仕事以外ない。二人きりでなにを話せば良いのか、、。しかし、こうまで熱心に関わろうとしてくれた笑子を、どこか好ましく感じていた。


「そうですね、、いつか、是非。」

「ホントですか!!いつにしましょう?スケジュール帳を今出しますっ!!」


 大人は2つの種族に分かれる。いつか遊びましょうと言って予定を決めずにそのままにするタイプと、今すぐ決めましょうというアグレッシブなタイプである。笑子は後者であった。


「え・・・。八重子、、困惑・・・。」

「来週ご都合の宜しい日は?私、有給いつでも使えます!」

「え、えっと、じゃあ、火曜日?」

「火曜日!今年一番のイベントです!ああ、嬉しすぎる!!」

「そ、そんなに・・・?」

「はい!私ずっとヤッコ様のチャンネル、欠かさず観てましたから!」

「そっか。う、うれしいです。それにしては眉毛が60点でしたけど、、あ。また余計なことを言ってしまった・・・。」

「良いんです!ヤッコ様のジャッジは確かですから。でも明日からはヤッコ直伝眉毛で自信アップです!」


 キラキラとした目で八重子を完全に肯定する笑子。八重子は慣れていなかった。困惑していた。だけど、だけど、、


「今日は、、気分が良いな。よく眠れそう。」

「そうですか!良かったです!!」

「ヒヒヒ・・・」

「笑った顔は急にかわいくなるんですよね!ヤッコ様って!」

「え、、、あ、あの。様はやめて、、」

「なんとお呼びしたら??」

「え、えっと、八重子で、、」

「では八重子さん!」

「はい、、tueeeeeなぁ・・・。」



 悪い気はしていなかった八重子。


(火曜日、、せめて出前くらいは取ろうかな・・・。ヒヒヒ・・・)



 続く。

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