おまけep145 なんとかあっちもこっちも上手くやってます。
デパートに着くと、妙と末はさっそく、夏の特設水着売り場に行った。もちろんその場にいた人たちはざわめいた。フランス人形のような美少女と、奇跡のかわいこちゃんが手を繋いで笑顔で歩く姿は、それを見た人にとって、急に天使が住まう異次元に飛ばされたかのような錯覚を感じるのだ。
「わー、妙ちゃん!すごい水着の数だよ!」
「ねー!末に似合うやつどれかなー?」
「かっこいいやつだよ!クールでエッジの効いた、それでいてパラサイトの寄ってこない感じの!」
「それ大事ね!では、ミッションをスタートする!行くぞ!」
「おー!個性や自由ではみ出していくー!!♡」
「はみだしていくぅー♡」*デレデレ
もう、ウェットスーツで行けよと言われそうな美少女、末。大好きな妙と二人きりのデートで興奮しながらも水着を試着しては妙に見てもらっていた。
「妙ちゃん、これは?」
「んんー、おしりがかわいすぎる。却下。」
「じゃあ、これは?」
「セパレートはダメ。おへそ見せちゃダメ。」
モラハラセクハラ気味の彼氏のような姉の厳しい目によって選ばれた水着は、ダークカラーのビキニにキャミトップスとショートパンツがついた大変無難で可愛らしいものだった。所要時間、1時間半。
「もー!妙ちゃん、すんごいうるさいんだもんー。はーつかれたぁ♡」
「仕方ないでしょ!末の安全を確保するためなんだから!」
「勇者は水着を手に入れたぁー!次、プリクラー!」
「よーし、いこー!」
誘拐を警戒して、普段はゲームセンターを禁止されている美少女、末。家族となら行って良いことになっている。末はフリフリのスカートで髪を振り乱して太鼓を叩き、ゾンビを倒しまくった。ウォリャァァァァ‼
そして、愛する妙ちゃんとほっぺをくっつけてラブラブなプリクラを撮った。出来上がるとすぐに次女である萌に写メを取って送り挑発する。
『はっはっは!うらやましいだろう!?』
『え、なにあんた!なんでお姉ちゃんと2人でプリクラ撮ってんの?どこにいるの!?』
『おしえるわけないだろー!ばいばいきん!』*やなやつ。
末の満足度はマックスに近かった。この時点であとから知恵熱を出すことは確定していた。そして、2人はお昼ご飯を食べにお好み焼き屋へ。
「妙ちゃん!行くよ!」
「わかった!せーのでね!」
2人はお好み焼きをひっくり返すのに、ヘラを1つずつ持ち、2人でひっくり返すという1番難易度の高い方法を敢えて選んだ。
「「いっせーのーせぃ!!」」ペチャ。
「あー!妙ちゃんの下手くそー!キャハハ!」
「あははは!失敗だぁー!末も下手くそー!」
なんでも楽しい2人。周りにいた他の客は皆、その光景を見てなにがしかのトラウマが消化されたと言う。さぁ、皆もお好み焼き屋へ行こう!
しかし、その光景を動画で自撮りした末は、またしても萌に送る。なぜそういうことをするのか。それはマウントを取りたいから。
しかし、その幼稚な行為の代償は、末ではなく妙にいくことになる。イラついた萌を見て香織がその動画を見る。そして転送に転送を繰り返し、香織からみちるへと動画は送られた。
萌「もーなんなの末!むかつく!」
みちる「随分楽しそうね…。ずっと末ちゃんといればいいじゃない…。なにこのデレ方。」
妹思いの妙。知らない間に、愛ゆえの怒りを買う理不尽なこの世界…。2人の女を敵に回した。特にみちるの闇は深かった。
帰ってからの受難を知らない妙は、末とお好み焼きを楽しみ、至福の時を過ごした。
そのあと2人は実家に戻り、ゲームをして遊んだ。受験生の息抜きである。末のはしゃぎっぷりを見て、母と姉はそっと涙した。
「じゃあ、そろそろみちるの仕事が終わる頃だし、帰るね。」
「ええ、帰っちゃうの・・・。お願い、ギュッてして?」
「また来るからね?あと、プール行くときは気をつけてね。」
「わかった。妙ちゃんに選んでもらった水着を妙ちゃんだと思って頑張る。」
「え?まぁ、いいか。うん、じゃあまた来るから!」
かわいい妹をギュッと抱きしめると、羽交い締めにされそうなのを何とか振り払い、気を利かせた母に捕まえられた末の泣き叫ぶ声を聞きながら、妙は実家をあとにした。
「ぎゃぁぁぁぁん!たえちゃぁぁーーーーん!いやぁーーー!!」
夏の終わりに響く、蝉の断末魔のようであった。
切ない気持ちの姉は、帰り道を急ぐ。そしてやっと末から意識が離れたとき、次から次へと襲ってくるかのような、強烈な第六感が走った!
「はっ!なんだろう、この胸騒ぎ!私はなにか重要なことに気づいていない気がする!」
それはきっと、嫁サービスであろう。そんな声が天から聞こえた気がした妙。
「何事もなければ気のせいってだけで良いじゃないか。とりあえず、仕事終わりのみちるを迎えに行ってみよう。そうだ、甘いものも買っていこう!」
妙は間一髪、危険を察知して回避することが出来たのだった。
みちるの好きなロールケーキを買い、小さなお花のブーケを買った。そしてみちるが働くクリニックの前でしばらく待ち、仕事が終わったみちるを見つけると、初めておじいちゃんおばあちゃんの家に泊まりに行って帰ってきたこどものように、ママ大好きーの顔をしてみちるの元に駆け寄った。
「みちるちゃん!お帰り!会いたかったから迎えに来ちゃった!!」
みちるの今日一日のモヤモヤは、天狗の団扇一振りで跡形もなく消えた。
「妙ちゃん!お迎えに来たの?寂しかったの?会いたかったの?そんなにみちるが好きなの?ケーキ持ってるの?その花束はなに?」*どちて?坊やとなったみちる
「みちるのこと考えてたら迎えに来ちゃった。あとみちるのこと考えてたらケーキとお花をあげたくなった。」
後に妙は語る。時々、なにかに操られるようにああいう言葉が口から出てくるんだと。それが魅了チートと呼ばれる天からの才能で在ることは誰も知らなかった。
「た、妙ちゃん!そんなにみちるを欲してっ!!さぁ、手を繋いで帰りましょう!」
「うん!お仕事お疲れ様!」
「妙ちゃんは今日、楽しかった?みちるにお話ししてくれる?」
「うん!末とね、デパートに行ってね、」
「良かったねぇ、妙ちゃん♡」
精神年齢を操れる女、妙。
こうして平和は保たれたのだった。ちなみに、萌は香織がなんとかするだろう。
続く。
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